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「へぇ、これがサングリア?」
「はい、赤ワインの渋みが苦手な人でも果物の甘さが加わるから飲みやすいんです。今回は冬だからこうやって温めてるけど、カットした果物を漬けておくだけでも美味しいんですって。」
「フゥン、確かに美味そー。」
銀時はボトルからワインをコップに注ぎ、ちまちまと飲む。
「ふふふ、きっと甘いもの好きな銀時さんは気にいると思いますよ。」
微笑を浮かべながら優しく小鍋をかき混ぜる伊織に徐に手を伸ばし、顎を掬い取った。ゆっくりと顔を寄せていくと、その距離に比例するように伊織の顔が赤くなっていく。互いの鼻がチョンッと触れ合った時、伊織がギュッと目を瞑った。
「…お前は好きなの?」
「へ?ぁ…ん、」
キスをされるのかと思いきや、質問を投げかけられて少し驚いたように目を開いたところで銀時に唇を掠め取られた。
頬を染めて銀時を見つめる目は微かに潤んでいる。銀時はカチリと火を止め、そのまま台に両手をついて伊織を閉じ込めた。
二人の間にはワインと果実の芳香な香りが漂っている。
まだ一口も飲んでいないのに、どうしよう、酔ってしまいそう___
伊織が突然の甘い雰囲気に当てられてクラクラしていると、銀時が物足りなさげに唇を啄んだ。
リップ音を鳴らしてバードキスを数回繰り返し、最後にペロリと唇を舐めてやると伊織の体がビクッと震える。
「っん、…は、ぁ…」
「な、好き?」
二人の熱っぽい視線が絡み合う。
「好、き…」
伊織は銀時の着物をクシャッと握ってゆっくりと桜色の唇を押し当てた。
少し経ってから背伸びをしていて浮いていた踵を床につけると、再び目が合う。
ポカンとした表情の銀時を見て伊織はボワッと顔を赤らめた。
あり?…俺今伊織からキスされた?
つーか、今の『好き』って、
「…あああああの!わた、わわわ私、コレ注いだら行くので!ささ、先に、戻っててください!!」
「ちょ、なぁ、伊織…
「お願いします!お、お願いだからぁ…!!」
グイグイと銀時の背中を押して台所から追い出すと、伊織はすぐに中へと引っ込んだ。
銀時はペタペタと冷たいフローリングを踏みしめて居間に戻り、ボスンと音を立ててソファに座り込んだ。顔を覆ってブルブルと背中を震わす。
…あれは完全に俺のことだった。完っ全に俺だわ。
や、ヤベェェェ!!!!ちょ、ヤバいって、
滅多に自分からしてこない伊織が!?
銀時はあの酒が好きだと言わせて、「じゃあ俺のことは?」と聞くつもりだったのだ。それがとんだ嬉しい大誤算。まさか酒のことをすっ飛ばして『(俺が)好き』だと言い、その上キスまでしてくるとは。
奥手な伊織のことだ。今頃必死に心を落ち着かせているのだろう。
「クッソ…可愛過ぎかよ!!!」
銀時はニヤつく口元を押さえて大きな深呼吸を一つすると、緩んだ顔を引き締めるようにバシバシと数回頬を叩いた。
*
どど、どうしよう…私、何しちゃってるの…??!!
ああああ、あれは、お酒が好きかどうか、って、な、なのに、私、私ったら、……あぁぁあああ!!!もう!!
茹で蛸のように真っ赤な顔に両手を押し当てて「ううう…」と唸る。
カラカラになった喉を潤わせようと目に入ったコップを掴んで中身をぐいっと煽った。
「ぷはっ……あ…」
喉いっぱいに葡萄の心地よい渋みが広がり、伊織は目を見開いてコップの底を見つめた。
「……しまった。これ、わいんだった……ひっく…」
口元を押さえてしゃっくりを堪える。のぼせている状態で一気にアルコールを摂取したせいか頭がふわふわする。
さっきまで恥ずかしくて赤くなっていた頬が、次は酔いのせいで赤くなっていく。
「…そうだ」
もういっそ、記憶が消し飛ぶくらい酔って仕舞おう。
血迷った伊織は回らない頭でボトルに残ったワインを全て注ぐと、一気に飲み干した。
タンっと台の上に空のコップを置き、息を吐く。すっかり出来上がった伊織はフフフ…と笑いながらほんの少し温くなってしまったサングリアをカップへと注ぐ。
「銀時さんはぁ、いちごが好きだから、…えへ、こっち、かなぁ」
二つ並んだカップのうち、いちごが多めに入っているカップの縁をなぞって楽しげに微笑んだ。
*
「…どうぞ。」
「お、おう、ありがとな。」
数分後にようやく銀時の元へとやってきた伊織は静かにカップを手渡した。人一人分開けて隣に座り、二人の間には妙な沈黙が生まれる。
銀時はチラリと伊織の様子を窺ったが、俯いて髪の毛に隠れた伊織の表情はよくわからない。
カップの中で葡萄色の液体にぷかぷかと浮かぶいちごを眺める。
…まぁ、とりあえず…飲むか。
コクリと喉を鳴らして飲み込めば、ワインの風味とともに果物の爽やかな香りが広がった。確かにフルーツの甘味がワインの渋みを軽減させていて飲みやすくなっている。
口の中に流れ込んできたイチゴをあむ、と噛み潰せばワインと果汁が合わさって味が変わる。
「っはー…めちゃくちゃ飲みやすいなコレ。しかもいちご美味っ!
普通に飲むよりも好きかもしんね、え…?」
銀時はピシリと動きを止めた。
伊織が銀時のカップをそっと奪い、テーブルの上に置いたのだ。
なんだなんだ…?と伊織の動きを注視していたら彼女がゆらりと自分の前に立ち塞がった。
「あの、伊織サーン…?」
おちゃらけたように呼びかける銀時だが、彼の心臓はバクバクと波打っている。
そんな銀時の心情など露知らず、伊織は銀時の足の間に片膝を立てて彼の肩に両手を置いた。ソファのスプリングがギシッと音を立てる。
銀時の顔には影が掛かり、伊織の緩くカールがかかった柔らかい髪が頬に触れた。
お、おおおお!!??何だコレ!?
なんかめっちゃ見つめられてるんですけど!!
…っていうかシャンプーの匂いがスッゲェするんだが!!あれ、伊織って俺とおんなじヤツ使ってるよな??こんなにいい匂いしてたっけ?俺いつもこんな花みたいな匂い撒き散らしてんの??
え、ちょ、ま、銀さん心臓破裂しそうなんだけどぉぉ!?
伊織の髪の毛のカーテンに囲われた銀時は鼻息が荒くならないように慎重に呼吸を繰り返す。
伊織はとろりとした目で銀時をじっと見つめた。
「…銀時さん」
「オオオウ、ど、どした?」
吃りながら答える。吃驚するくらい積極的な伊織にペースを乱された銀時はいつもの攻めの姿勢を忘れて何故かハンズアップした。
伊織はフッと表情を緩めて右手を滑らせた。銀時の上腕をなぞり、前腕を登って手のひらへと辿り着くと、ピトリと自分の手のひらを合わせる。割れ物を扱うかのような優しい手つきに思わずゾクッとした。
「伊織サン…俺今、手汗めっさヤバイんですが…」
口元をひくつかせながら間抜けなことを呟く。
湿っぽくて熱い銀時の手は伊織の少し冷たい手に温度を奪われていく。伊織は細い指を銀時の指と指の間に差し込んでキュッと力を込めた。
「ふふ、銀時さんの手、すごく熱い。」
「そ、ソーデスカ…」
オメーのせいだよ!!!と叫びたくなるのをグッと堪えて左手に顔を向けた。自分の手には伊織の手が絡み付いている。
だらしなく開いた口からハッと息が漏れた。
まじまじと恋人繋ぎをしている手を見つめていると、伊織のもう片方の手が頬に添えられる。
「銀時さん、こっち向いて…」
「ぬあっ!?」
伊織の切なげな声に一際大きく胸が高鳴り、ダラダラと汗を流しながら伊織に視線を移した。
うっとりと銀時の目を見つめる伊織は銀時の頬をするりと撫でて甘い息を吐く。
「な、なぁ、お前もしかして酔ってる?」
「……疲れ、ちゃった。」
銀時の質問が聞こえていないのか、「はい」とも「いいえ」とも答えずにそう呟いた伊織はゆっくりと銀時の胸にしなだれかかった。柔らかな身体が押しつけられて銀時の心臓のBPMは鰻登りに上がっていく。
オワアアアア!!!待て待て待て!!
マジでどうしちゃったワケ伊織サーン!?
スッゲェ積極的じゃねえかオイ!何コレ、食っちまっていいの?もう食っちゃっていいよねコレ!!こんなんもうほぼゴーサインだよね?!銀さん優しくできそうにないんですけどォ!!!
銀時の思考がじわじわとピンク色に染まっていく。
プルプルと震える手をそ〜っと伊織の腰に回した。
「すき…」
銀時の胸にすり、と頬擦りをした伊織がぽつりとこぼせば銀時の手が大袈裟に揺れる。
「私、銀時さんが好き…」
「ンン゛ッ!!」
ちょ、オイマジか!!
やばいってコレ!やだコレ!なにコレ!!!
襲ってくださいってか!?私のこと食べてくださいってか!?
マジでやべーよ!なぁもう銀さん色々と限界なんだけどォォオオオ!!!
目を血走らせて伊織の一挙一動にドギマギする銀時。
ボルテージが上がりに上がってこめかみあたりで汗が一粒、流れ落ちた。
「伊織…」
名前を呼べば伊織が顔を上げる。伊織は銀時の後頭部に手を添え、ゆるゆると撫でる。
互いに心酔し切った二人はどちらからともなく顔を近づけ、銀時はゆっくりと目を閉じた。
あと少しで唇が合わさる________
銀時の興奮度が最高度に達したその時、伊織の唇は大きく照準を逸れて銀時の肩へと埋もれた。
「は……?」
銀時はパチクリと目を見開いて固まる。
お……?………って、ちょぉぉぉっと待てェェェい!!!!
え?あの、…え?!オイオイ…ウソだろ?
な、なんか寝息が聞こえる気がするんですけど……
「伊織ー…?」と軽く身体を揺すっても反応はなく、ふわふわとした髪の毛が首筋をくすぐるだけだ。
ウオオオオオイ!!!ちょっと待ってくれよォオオオオ!!!
ここで終わるか!?さっきまでめっさいい雰囲気だったじゃん!!!
銀さんもうその気になってたんですけど!!!
銀さんの銀さんはもう準備万端なんですけどぉぉおおお!!!!??
「ナァ伊織〜…起きてくれよォ…!
お前ここで寸止めはねェよぉ!!生殺しじゃねえかオイィぃ…!」
力の抜けた伊織の身体を力一杯抱きしめて頭をぐりぐりと押しつけても起きる気配は一向にない。
情けない声で呼びかけ続けるが、伊織はすでに夢の中へと旅立っていた。
長く大きなため息をついてがっくりと項垂れる。そしてはた、と気づいた。
「ちょ、…待てコレ…俺、動けねぇじゃんかぁ……!!!」
伊織の右手は恋人繋ぎをしたまま、もう片方の手はいつの間にか銀時の着物をキュッと握りしめていた。おまけに身体は完全に銀時に預けているのだ。
高ぶった熱をどうにかして逃したいのにそれさえさせてくれない伊織は小悪魔なんてものじゃない。
「クッソ…!マジで覚えとけよなァ…!」
人をその気にさせておいて、何なんだよぉぉ…!と恨めしく思いながらギリギリと歯軋りをする。
お預けを食らってしまった腹いせに髪の毛をかき分けて首筋にガブリとかぶりつけば伊織の身体がピクリと動いた。しかしだからと言って起きるわけではない。辛すぎる。
「っっは〜〜〜〜………」
伊織の言葉が頭をよぎり、カッと体温が上昇していく。
言い逃げをされたことに不満が積もるものの、それ以上に愛しさが込み上げてきて銀時は伊織を掻き抱いたのだった。
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大胆な君には手も足も出なかった。
「はい、赤ワインの渋みが苦手な人でも果物の甘さが加わるから飲みやすいんです。今回は冬だからこうやって温めてるけど、カットした果物を漬けておくだけでも美味しいんですって。」
「フゥン、確かに美味そー。」
銀時はボトルからワインをコップに注ぎ、ちまちまと飲む。
「ふふふ、きっと甘いもの好きな銀時さんは気にいると思いますよ。」
微笑を浮かべながら優しく小鍋をかき混ぜる伊織に徐に手を伸ばし、顎を掬い取った。ゆっくりと顔を寄せていくと、その距離に比例するように伊織の顔が赤くなっていく。互いの鼻がチョンッと触れ合った時、伊織がギュッと目を瞑った。
「…お前は好きなの?」
「へ?ぁ…ん、」
キスをされるのかと思いきや、質問を投げかけられて少し驚いたように目を開いたところで銀時に唇を掠め取られた。
頬を染めて銀時を見つめる目は微かに潤んでいる。銀時はカチリと火を止め、そのまま台に両手をついて伊織を閉じ込めた。
二人の間にはワインと果実の芳香な香りが漂っている。
まだ一口も飲んでいないのに、どうしよう、酔ってしまいそう___
伊織が突然の甘い雰囲気に当てられてクラクラしていると、銀時が物足りなさげに唇を啄んだ。
リップ音を鳴らしてバードキスを数回繰り返し、最後にペロリと唇を舐めてやると伊織の体がビクッと震える。
「っん、…は、ぁ…」
「な、好き?」
二人の熱っぽい視線が絡み合う。
「好、き…」
伊織は銀時の着物をクシャッと握ってゆっくりと桜色の唇を押し当てた。
少し経ってから背伸びをしていて浮いていた踵を床につけると、再び目が合う。
ポカンとした表情の銀時を見て伊織はボワッと顔を赤らめた。
あり?…俺今伊織からキスされた?
つーか、今の『好き』って、
「…あああああの!わた、わわわ私、コレ注いだら行くので!ささ、先に、戻っててください!!」
「ちょ、なぁ、伊織…
「お願いします!お、お願いだからぁ…!!」
グイグイと銀時の背中を押して台所から追い出すと、伊織はすぐに中へと引っ込んだ。
銀時はペタペタと冷たいフローリングを踏みしめて居間に戻り、ボスンと音を立ててソファに座り込んだ。顔を覆ってブルブルと背中を震わす。
…あれは完全に俺のことだった。完っ全に俺だわ。
や、ヤベェェェ!!!!ちょ、ヤバいって、
滅多に自分からしてこない伊織が!?
銀時はあの酒が好きだと言わせて、「じゃあ俺のことは?」と聞くつもりだったのだ。それがとんだ嬉しい大誤算。まさか酒のことをすっ飛ばして『(俺が)好き』だと言い、その上キスまでしてくるとは。
奥手な伊織のことだ。今頃必死に心を落ち着かせているのだろう。
「クッソ…可愛過ぎかよ!!!」
銀時はニヤつく口元を押さえて大きな深呼吸を一つすると、緩んだ顔を引き締めるようにバシバシと数回頬を叩いた。
*
どど、どうしよう…私、何しちゃってるの…??!!
ああああ、あれは、お酒が好きかどうか、って、な、なのに、私、私ったら、……あぁぁあああ!!!もう!!
茹で蛸のように真っ赤な顔に両手を押し当てて「ううう…」と唸る。
カラカラになった喉を潤わせようと目に入ったコップを掴んで中身をぐいっと煽った。
「ぷはっ……あ…」
喉いっぱいに葡萄の心地よい渋みが広がり、伊織は目を見開いてコップの底を見つめた。
「……しまった。これ、わいんだった……ひっく…」
口元を押さえてしゃっくりを堪える。のぼせている状態で一気にアルコールを摂取したせいか頭がふわふわする。
さっきまで恥ずかしくて赤くなっていた頬が、次は酔いのせいで赤くなっていく。
「…そうだ」
もういっそ、記憶が消し飛ぶくらい酔って仕舞おう。
血迷った伊織は回らない頭でボトルに残ったワインを全て注ぐと、一気に飲み干した。
タンっと台の上に空のコップを置き、息を吐く。すっかり出来上がった伊織はフフフ…と笑いながらほんの少し温くなってしまったサングリアをカップへと注ぐ。
「銀時さんはぁ、いちごが好きだから、…えへ、こっち、かなぁ」
二つ並んだカップのうち、いちごが多めに入っているカップの縁をなぞって楽しげに微笑んだ。
*
「…どうぞ。」
「お、おう、ありがとな。」
数分後にようやく銀時の元へとやってきた伊織は静かにカップを手渡した。人一人分開けて隣に座り、二人の間には妙な沈黙が生まれる。
銀時はチラリと伊織の様子を窺ったが、俯いて髪の毛に隠れた伊織の表情はよくわからない。
カップの中で葡萄色の液体にぷかぷかと浮かぶいちごを眺める。
…まぁ、とりあえず…飲むか。
コクリと喉を鳴らして飲み込めば、ワインの風味とともに果物の爽やかな香りが広がった。確かにフルーツの甘味がワインの渋みを軽減させていて飲みやすくなっている。
口の中に流れ込んできたイチゴをあむ、と噛み潰せばワインと果汁が合わさって味が変わる。
「っはー…めちゃくちゃ飲みやすいなコレ。しかもいちご美味っ!
普通に飲むよりも好きかもしんね、え…?」
銀時はピシリと動きを止めた。
伊織が銀時のカップをそっと奪い、テーブルの上に置いたのだ。
なんだなんだ…?と伊織の動きを注視していたら彼女がゆらりと自分の前に立ち塞がった。
「あの、伊織サーン…?」
おちゃらけたように呼びかける銀時だが、彼の心臓はバクバクと波打っている。
そんな銀時の心情など露知らず、伊織は銀時の足の間に片膝を立てて彼の肩に両手を置いた。ソファのスプリングがギシッと音を立てる。
銀時の顔には影が掛かり、伊織の緩くカールがかかった柔らかい髪が頬に触れた。
お、おおおお!!??何だコレ!?
なんかめっちゃ見つめられてるんですけど!!
…っていうかシャンプーの匂いがスッゲェするんだが!!あれ、伊織って俺とおんなじヤツ使ってるよな??こんなにいい匂いしてたっけ?俺いつもこんな花みたいな匂い撒き散らしてんの??
え、ちょ、ま、銀さん心臓破裂しそうなんだけどぉぉ!?
伊織の髪の毛のカーテンに囲われた銀時は鼻息が荒くならないように慎重に呼吸を繰り返す。
伊織はとろりとした目で銀時をじっと見つめた。
「…銀時さん」
「オオオウ、ど、どした?」
吃りながら答える。吃驚するくらい積極的な伊織にペースを乱された銀時はいつもの攻めの姿勢を忘れて何故かハンズアップした。
伊織はフッと表情を緩めて右手を滑らせた。銀時の上腕をなぞり、前腕を登って手のひらへと辿り着くと、ピトリと自分の手のひらを合わせる。割れ物を扱うかのような優しい手つきに思わずゾクッとした。
「伊織サン…俺今、手汗めっさヤバイんですが…」
口元をひくつかせながら間抜けなことを呟く。
湿っぽくて熱い銀時の手は伊織の少し冷たい手に温度を奪われていく。伊織は細い指を銀時の指と指の間に差し込んでキュッと力を込めた。
「ふふ、銀時さんの手、すごく熱い。」
「そ、ソーデスカ…」
オメーのせいだよ!!!と叫びたくなるのをグッと堪えて左手に顔を向けた。自分の手には伊織の手が絡み付いている。
だらしなく開いた口からハッと息が漏れた。
まじまじと恋人繋ぎをしている手を見つめていると、伊織のもう片方の手が頬に添えられる。
「銀時さん、こっち向いて…」
「ぬあっ!?」
伊織の切なげな声に一際大きく胸が高鳴り、ダラダラと汗を流しながら伊織に視線を移した。
うっとりと銀時の目を見つめる伊織は銀時の頬をするりと撫でて甘い息を吐く。
「な、なぁ、お前もしかして酔ってる?」
「……疲れ、ちゃった。」
銀時の質問が聞こえていないのか、「はい」とも「いいえ」とも答えずにそう呟いた伊織はゆっくりと銀時の胸にしなだれかかった。柔らかな身体が押しつけられて銀時の心臓のBPMは鰻登りに上がっていく。
オワアアアア!!!待て待て待て!!
マジでどうしちゃったワケ伊織サーン!?
スッゲェ積極的じゃねえかオイ!何コレ、食っちまっていいの?もう食っちゃっていいよねコレ!!こんなんもうほぼゴーサインだよね?!銀さん優しくできそうにないんですけどォ!!!
銀時の思考がじわじわとピンク色に染まっていく。
プルプルと震える手をそ〜っと伊織の腰に回した。
「すき…」
銀時の胸にすり、と頬擦りをした伊織がぽつりとこぼせば銀時の手が大袈裟に揺れる。
「私、銀時さんが好き…」
「ンン゛ッ!!」
ちょ、オイマジか!!
やばいってコレ!やだコレ!なにコレ!!!
襲ってくださいってか!?私のこと食べてくださいってか!?
マジでやべーよ!なぁもう銀さん色々と限界なんだけどォォオオオ!!!
目を血走らせて伊織の一挙一動にドギマギする銀時。
ボルテージが上がりに上がってこめかみあたりで汗が一粒、流れ落ちた。
「伊織…」
名前を呼べば伊織が顔を上げる。伊織は銀時の後頭部に手を添え、ゆるゆると撫でる。
互いに心酔し切った二人はどちらからともなく顔を近づけ、銀時はゆっくりと目を閉じた。
あと少しで唇が合わさる________
銀時の興奮度が最高度に達したその時、伊織の唇は大きく照準を逸れて銀時の肩へと埋もれた。
「は……?」
銀時はパチクリと目を見開いて固まる。
お……?………って、ちょぉぉぉっと待てェェェい!!!!
え?あの、…え?!オイオイ…ウソだろ?
な、なんか寝息が聞こえる気がするんですけど……
「伊織ー…?」と軽く身体を揺すっても反応はなく、ふわふわとした髪の毛が首筋をくすぐるだけだ。
ウオオオオオイ!!!ちょっと待ってくれよォオオオオ!!!
ここで終わるか!?さっきまでめっさいい雰囲気だったじゃん!!!
銀さんもうその気になってたんですけど!!!
銀さんの銀さんはもう準備万端なんですけどぉぉおおお!!!!??
「ナァ伊織〜…起きてくれよォ…!
お前ここで寸止めはねェよぉ!!生殺しじゃねえかオイィぃ…!」
力の抜けた伊織の身体を力一杯抱きしめて頭をぐりぐりと押しつけても起きる気配は一向にない。
情けない声で呼びかけ続けるが、伊織はすでに夢の中へと旅立っていた。
長く大きなため息をついてがっくりと項垂れる。そしてはた、と気づいた。
「ちょ、…待てコレ…俺、動けねぇじゃんかぁ……!!!」
伊織の右手は恋人繋ぎをしたまま、もう片方の手はいつの間にか銀時の着物をキュッと握りしめていた。おまけに身体は完全に銀時に預けているのだ。
高ぶった熱をどうにかして逃したいのにそれさえさせてくれない伊織は小悪魔なんてものじゃない。
「クッソ…!マジで覚えとけよなァ…!」
人をその気にさせておいて、何なんだよぉぉ…!と恨めしく思いながらギリギリと歯軋りをする。
お預けを食らってしまった腹いせに髪の毛をかき分けて首筋にガブリとかぶりつけば伊織の身体がピクリと動いた。しかしだからと言って起きるわけではない。辛すぎる。
「っっは〜〜〜〜………」
伊織の言葉が頭をよぎり、カッと体温が上昇していく。
言い逃げをされたことに不満が積もるものの、それ以上に愛しさが込み上げてきて銀時は伊織を掻き抱いたのだった。
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大胆な君には手も足も出なかった。
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