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残されたのはアメジスト【完結済】

 コンレイが回復したのを見届けて、カルメはそっと彼女の肩にかけた力を弱める。そのまま逆の手のひらを地面の方へ向けたかと思うと、いきなりずいいっと彼らの真下にあった土がせりあがった。慌てるイオニアも乗せて、地面の高度はずんずんと上がっていく。3メートルほどの高さでゆっくりと動きを止めたそれは、大きな岩石の塊を身体の中心に据えてそこから岩の連なる四肢を伸ばした魔法生物、ゴーレムであった。

「よぅし、全速前進! 一応転倒防止のためにてっぺんをお椀型にしたけど、勢いあるから振り落とされんなよ?」
「えーっ!? いきなりこんなの作ってどうしたのさ!」
「事態は一刻を争う。ちんたら歩いてる場合じゃねぇ!」

 ゴーレムの頂上でいつになくハキハキと答えるカルメ。そうしているうちにもゴーレムは浜辺へ向かってずんどこ進んでいく。イオニアは揺れる地面に負けないようしっかりとゴーレムの縁に捕まり、地上を注意深く観察した。次々と変わっていく景色のなか、やがて太陽の残照に照らされてきらきらと輝く海が目に入る。

「あっ、あそこ! プラシオさんじゃない!?」
「あの海の中にいる子……ベリルちゃんです!」
 イオニアとコンレイがほぼ同時に声を荒げる。浜辺には、今にも海に沈んでしまいそうな人影とそれを手招きする半人半魚の影が揺らめいていた。

「間一髪だな。『テラ=アクア!』」

 カルメがゴーレムの上から呪文を叫ぶと、人影の周りの海水が跡形もなく消え失せた。と同時に、人影の足元の土がゴーレムとなって彼を連れ去る。カルメたちが乗っていたゴーレムより幾分か小さなその土くれは、プラシオを抱きかかえて大きなゴーレムの方へひょこひょこと歩いていった。

「イオニア、催眠解除の魔法を頼む。それぐらいの応急手当はできるよな」
 イオニアにそう言い残し、カルメは海の中で放心しているベリルの方へ向かった。コンレイとイオニアも大きなゴーレムから降りてちびゴーレムからプラシオを受取り、慎重に地面へ寝かせる。役目を全うしたちびゴーレムは、音も立てずにただの土へと戻っていった。

「イエッサー! えーっと草魔法の呪文は……」
「ヘルバですよ、イオニアくん」
「ありがとコンレイさん。『ヘルバ』」
 しかしイオニアが唱えた魔法は、どこに行くでもなく空中で霧散してしまった。
「あれ? 俺、とうとう応急処置の魔法すら使えなくなっちゃったかな」
「これはもしや……」

 コンレイが何か言おうとしたとき、プラシオの首がゆっくりと彼らの方を向く。彼は存外しっかりとした声色で、微笑みながらこう言った。
「だいじょうぶ。ボクはもう催眠になんてかかってませんよ」
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