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残されたのはアメジスト【完結済】

「転移先は臨海公園でいいんですね?」
「ああ。もうすぐ黄昏時だろ?もしも本当にあの新聞記事の通りに事が運ぶとしたら、プラシオさんはセイレーンの歌に引き寄せられて入水しちまうだろう」

 まだ太陽が沈み切る前。表へ出たカルメたちは、コンレイへ転移魔法の使用を頼んでいた。行き先はプラシオとベリルが初めて出会ったという臨海公園である。

「でもなんで臨海公園? やっぱり思い出の場所だから?」
「まあそうだ。初めて会った場所ってことはベリルさんの主だった活動場所に近い可能性が高いし。といっても、ぶっちゃけカンの部分も大きい。恋愛は理屈じゃ説明つかないことばっかだからなー」
 ぽりぽりと頭を掻くカルメ。根っからのロジカル人間である彼は、珍しく自信なさげに答えた。

「魔法の準備ができました。行きますよ?」
 集中して魔力を練っていたコンレイが声を上げる。彼女がゆっくりと瞬きした次の刹那、カルメたちは件の臨海公園の地面を踏みしめていた。
「さんきゅ。マジで便利だよな、転移魔法」
「どういたしまして。一応公園の入り口に転移したので、浜辺までは500メートルほど歩きますね」

 コンレイはそわそわと辺りの様子を伺った。港町であるレストールの町の臨海公園は、その広さと浜辺の美しさで観光客に人気のスポットだ。いつもならこの時間帯はまだいくらか人がいるはずなのだが、今は閑散としている。ふと、彼女はぴりりと妙な感覚を覚えた。微かに聞こえたメロディが頭の中へ入ってきた瞬間、意識が遠のきふらりと脚がもたつく。

「あ……」
「おっと、大丈夫か」
 ぐいっとカルメに肩を掴まれ、なんとかコンレイは体制を持ち直す。彼の声ではっと意識を戻した彼女だったが、依然として妙な感覚は続いていた。

「ハーピーの耳は感度がいいな。こんな遠くからでも聞こえるのか……『テネブラエ』」
 カルメが呪文を唱えると、程なくして三人を囲むように半球状の薄い壁が現れた。彼らが移動すると壁も同じように移動するようで、常に半球の真ん中にカルメたち三人がいるような形になった。
「何これ?」
 初めて見る謎の壁を恐る恐るつつくイオニア。彼の指は壁をすり抜けて、いとも簡単に向こう側へ突き出された。

「音由来の催眠魔法を防ぐ防御魔法だ。セイレーンは催眠魔法の込められた歌で船乗りたちを海へと引きずり込む、って聞いたことあるだろ?」
「じゃあ今コンレイさんがふらついたのって」
「恐らくそういうことだろう。ちっ、思ってたより早いな……コンレイ、もう平気か?」
「はい、ありがとうございます……」
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