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残されたのはアメジスト【完結済】

「そうそう、宝石魔法といえば……ベリルさんはアクアマリンの首飾りを肌身離さず持ってたらしいな。この意味、気になるよな?」
 どこか挑戦的な笑みを湛えてカルメは言い放つ。既にすべてを見通しているような、自信に満ちた態度のカルメに対して微妙にイラっとしたイオニアはたまらず彼に突っ掛かった。

「もったいぶってないでさっさと教えてよ。変なところでカッコつけようとするの、カル兄の悪い癖だよ」
「おい、ストレートな悪口はやめてくれ。結構効くから……!」
「カル兄は三枚目ぐらいが一番似合うよ」
「追い打ちやめろ!」

 イオニアの二言で一気に調子を崩されたカルメは、気まずそうにマグカップへと手を伸ばす。冷めた目つきのイオニアとあたたかい目つきのコンレイに見守られながらぐいっと冷めかけのホットミルクを飲み干すと、仕切り直しとばかりに語調を強めて話を再開した。
「とにかく! ベリルさんの正体が分かったのはいいが、問題はなんで失踪したのかだ。この記事を見てみろ」
 カルメは先ほど机に置いておいた新聞を広げ、小さな記事を指さした。

「なになに、『水底へと消えたカップル 心中か』この記事に何の関係があるんですか?」
「このカップルが失踪したあらまし、どこかで見覚えがないか?」
 コンレイとイオニアは肩を寄せて記事を覗き込む。カルメの言葉に思考を巡らせたイオニアがはっと声をあげた。

「『早朝に全ての私物と共に彼女が失踪。黄昏時、後を追うように彼氏も失踪。翌朝、浜辺には彼氏の服の切れ端が浮かんでいた』って、この記事の彼女とベリルさんの失踪状況が全く同じだ!」
「僕が今朝その記事を読んだとき、セイレーンのうち悪意を持った奴らは他の種族を海に引き込んで溺死させることがあるっていう噂を思い出してな。もしかしたらベリルさんも、そいつらのようなセイレーンなんじゃないか? っていうのが僕の推理だ」
 ふう、と息を吐いて話を締めるカルメ。

「まさか……! ベリルちゃんがそんなことをする子だなんて信じられません。あの子は確かにセイレーンだったけど、そんな素振り、一度も」
 コンレイはうろたえた。言葉を途切れさせながらも、何とかカルメに反論しようとする。対するカルメはいたって冷静に窓の方を見つめて返答した。

「勿論、可能性があるってだけの話だ。だから、それを今から確かめに行こうぜ」
 彼の視線の先では、傾き始めた太陽が力強く赤い光を放っていた。
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