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残されたのはアメジスト【完結済】

「えっ? カル兄何言って……」

 戸惑うイオニアをよそに、コンレイははっきりと返答した。
「はい。ベリルちゃんは人間ではありませんよ」
「だよなあ。おおかた、地上でプラシオさんと会うときは変身魔法を使って人間の姿に擬態してたんだろう」
 カルメは落ち着き払ったまま、再びホットミルクに口をつけた。イオニアは状況を呑み込めずコンレイとカルメのほうをぽかんと見つめる。そんなイオニアに気が付いたのか、カルメは自らの考えをかいつまんで説明した。

「人間の恋人は人間、っていう先入観に囚われてちゃダメだったな。よーく思い出してみろよ。プラシオさんはベリルさんのことを一言でも『人間だ』って言ってたか?」
「確かに、言ってなかったかもしれない……」
 イオニアは今までのことを思い返してみた。言われてみれば貴金属店でプラシオとベリルのことについて話したときも、彼は自らの恋人のことを一度も『人間』とは言っていなかった気がする。
「けど、人間じゃないとも言ってないよ! どうしてプラシオさんは、自分の恋人の種族について隠すような真似をしたのさ?」
「それは、ベリルさんが今も少なからず迫害されてる種族——セイレーンだからだろう」
「せいれーん……」
 あくまで推測に過ぎねーけど、と付け加えてカルメは言う。今までの認識から180度転換された事実を前にして、イオニアは気の遠くなるような思いで天を仰いだ。

「よくお分かりですね、カルメくん。ピンポンです」
「ピンポン?? ま、まあとにかく、プラシオさんとベリルさんが臨海公園で出会ったってのは多分本当だ。しかしそん時プラシオさんは人間、ベリルさんはセイレーンの姿だった。セイレーンはまだまだ偏見の目で見られることも多い種族だ。ベリルさんは、変身魔法で人間に擬態しながらプラシオさんと会ってたんだろうな」
 コンレイの操る独特な言葉遣いに若干気おされながらも、カルメは説明を続ける。

「残念ながら僕は使えねーが、変身魔法は水魔法の一種だ。そしてこの魔法は、魔力の消費がとんでもないらしい。ずっと魔法をかけっぱなしってわけにもいかねーから、家にいるときはあのでっかい水槽の中で本来の姿に戻っていた。で、プラシオさんへ会いに行くときにその都度魔法をかけ直してたんだろう。だからベリルさんの家と、あとプラシオさんにも高濃度の水魔力がこびりついてたんだ」
「プラシオさんにも?」

 イオニアが復唱した。ベリルの家に水魔力が溢れていたのは知っていたが、プラシオにも魔力がついていたのは初耳だ。
「多分変身魔法を使った状態で会ってるうちに移っちまったんだろうな。恋人と長く一緒にいると香水の匂いが移る、ってのと理屈は一緒だ。おかげで最初、プラシオさんも魔法が使えるのかと勘違いしちまったぜ」
「だからあの時、プラシオさんに宝石魔法を薦めてたんだね」
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