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残されたのはアメジスト【完結済】

「わあ、この服動きやすくていいね!」
「でしょう? うちのロッジは色んな種族の宿泊客が多く来るので、洋服のストックはバッチリですよ」

 早くも打ち解けたイオニアとハーピーの女性は楽しげに談笑している。カルメは彼女の母から温かい飲み物を受け取り、静かに備え付けの新聞を眺めていた。
 ハーピーの女性が転移魔法で送ってくれたのは、彼らが登っていた山の麓にある小さな山小屋。彼女らは家族でこのロッジを経営しているらしい。小さくとも管理が行き届いており、家具や調度品の一つ一つが丁寧に手入れされていることがわかる。大広間に飾られた花瓶には、上品にアレンジされたブーケが生けられていた。

「そういえばあなたには自己紹介がまだでしたね。わたしはコンレイ。ベリルちゃんとはお友達なハーピーです」
 着替え終わったイオニアと連れ立ってカルメの方へ歩いてきたコンレイは、にこりと口角を上げて柔らかく笑った。

「僕はカルメ。見ての通り人間の魔法使いだ」
 そう答えたあと、カルメはずずっとホットミルクをすすった。砂糖が入っているのか、ほんのりと甘い味が口内に広がる。甘党の彼はなんとなくちいさな幸せを噛みしめた。
「大体の事情はさっきイオニアくんから聞きました。さっきは失礼な態度をとってしまってごめんなさい」
 コンレイは丁寧に謝罪する。慌ててカルメは机の上に新聞を置き、顔の前で手を振った。
「いやいや、こっちこそ誤解させるような真似をして悪かった。イオニアの着替えだけじゃなく、飲み物まで用意してくれてありがとな」
「あなたたちも立派なロッジのお客さんですからね。最大限のおもてなしです」
「そりゃ嬉しいな。さて、イオニアも戻ってきたことだし本題に入ろうか。……と、その前に、コンレイに一つ確認しておきたいんだが」

「確認?」
 カルメとコンレイの近くに座ったイオニアが言う。当のコンレイも何のことかわからず首をかしげた。カルメは微妙に間を開けて、続く言葉を紡ぐ。

「ベリルさんって、人間じゃないよな?」
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