プロローグ【完結済】

「ばいばーい!」
「二人とも、急にお願いしちゃって悪かったわね。でも助かったわ。ありがとう」
 穏やかな目元を細めた女性がカルメたちへ礼を述べた。

「いえいえ。今後とも探偵所をよろしくお願いします」
「どうせカル兄はいつでも暇してるんで、じゃんじゃん頼っちゃってくださいね。……いてっ」
 冗談めかしてイオニアが言う。カルメは営業スマイルを崩さずに、こっそり隣の学生靴を軽く踏んだ。そんな密かな攻防などつゆほども知らぬ子供たちは、カルメへ純真な瞳を向ける。

「また魔法見せてね!」
「おう、いつでも来いよ」
 カルメがコライオとユタの頭をぽん、と撫でると子供たちはくすぐったそうに、しかし嬉しそうに破顔した。言葉こそぶっきらぼうだがカルメの仕草はいたって優しいものだ。魔物の乱入というハプニングこそあったものの、二週間ぶりの依頼は無事に完了である。


◆◇◆


「ふー、疲れたあ」
 カルメと共に依頼人への対応を済ませ、リビングに戻ったイオニアはそのままソファにぼふん、とダイブ。肌触りの良い布にゆっくりと沈みこんでいった。

「イオニア、お前は寮生だろ。なんで我が物顔でくつろいでるんだ」
 完全にだらけモードに入っているイオニアはカルメのほうに頭だけ向けて答える。
「なに言ってんのさ。明日から連休だから、いつも通り泊まり込みでバイトしに来てるんだよ」
「ああ、もう週末なのか……。どうも研究職ってのは曜日感覚が狂っていけねーな」
「ま、今週もどうせヒマだろうし、また俺の課題手伝ってね!」
「断る。明日こそは……明日こそは必ず依頼を受けて充実した週末探偵ライフを送るんだ……!」
「それ先週も全く同じこと言ってたよね。今日で聞き納めできればいいんだけど」

 この探偵所から閑古鳥が飛び立つのは、もう少しだけ先の話。

〈了〉
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