残されたのはアメジスト【完結済】

「こんにちは。何日かぶりですね、カルメさん」
 人好きのする笑みを湛えてプラシオが挨拶する。その後ろにいるベリルは変身魔法を使っているのだろう、顔つきや体つきは浜辺にいた時と変わらないが、彼女の足は人間のそれである。

「元気そうで何よりです。何か追加の依頼ですか?」
「いいえ、そういうわけではないのですが……」
 プラシオはベリルの方をちらりと見る。プラシオへ向けて小さく頷いた後、彼女は一歩また一歩と踏みしめるようにカルメたちの方へ近づいた。
「この前は、私のせいで騒がせてしまってごめんなさい」
 ベリルは上品な仕草でゆっくりと頭を下げた。彼女の首元を飾るものは、もはや何もない。

「なんだ、そんなことか。別に僕は怒ったりしてねーから、頭を上げてくれ」
「ありがとう……」
 カルメは事もなげな様子でさらりと言い放つ。ベリルは頬に涙を伝わせながら顔を上げた。

「おかげでセイレーンによる他種族殺しの手口も分かったことだしな。予防策を考えて国民に広く周知させりゃあ再発防止にもなるだろうよ」
「そうですね。なんにせよ、収まるところに収まってよかったです」
 コンレイも心底嬉しそうに言った。プラシオからハンカチを受け取って涙を拭くベリル。それを見て、カルメはふとあることに気づく。

「指輪、受け取ったんだな」
「ええ。これからはプラシオと二人、地上で支え合いながら生きていくわ」

 幸せそうに話す彼女の左手薬指には、きらりと輝くアメジストの指輪が残されていた。

〈了〉
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