プロローグ【完結済】
「むかーしむかし……って言うほど昔でもねーけど、この世界には悪い魔王がいました。魔王は野生の魔物を凶暴化させ……おいお前ら、凶暴化って意味わかるか? えーとアレだ、もっと強くするってことだ。んで、そいつらが人々を片っ端から襲いました。世界中のみんなが困ってしまったので、ある国の王様が国一番の剣士に魔王を倒してほしいとお願いしました。その剣士はいろんな所を旅して仲間を集め、力を合わせて魔王を倒しました。そのあと剣士は勇気ある者、略して『勇者』と呼ばれるようになり、母国のお姫様と結婚して新しく国を作ったのでした。ハイ、めでたしめでたし」
「その話なら誰でも知ってるよー」
「じょーしきでしょ? 歴史の本じゃなくて絵本を読んで!」
「んなこと言われてもなあ。僕の家には魔導書と歴史書と小説ぐらいしかねーぞ」
ある晴れた日の昼下がり。まだあどけなさの残る顔立ちをした青年が、その風貌に似つかず存外乱暴な口調でこう言った。相対している二人の子供に読み聞かせていたのだろうか、全く絵本には見えない分厚い本をその手に持ち、ぱらぱらとめくっている。
「うーん、子供が知らなそうでいてかつ道徳的に良さそうな本なんて他にあるかな」
「ボク、歴史じゃなくてお兄さんの魔法が見てみたいな」
「わたしもわたしも! 魔導書があるってことは、お兄さんは魔法使いなんでしょ?」
子供たちは目を輝かせながら身を乗り出す。青年は少したじろぎこそしたが自分の職業に興味を持ってもらえるのは嬉しいようで、顔をほころばせながらそれに応えた。
「そうかそうか! 何の魔法がいい? 土? 雷? どっちにしても家の中じゃ危ないから外でやろうぜ」
「はーい!」
子供たちはひょこんとソファから降り、とことこと外へ向かった。青年も後ろからそれに続く。
「子供受けのする魔法っていやあ、やっぱ水魔法かな……いや、ここはインパクト重視で雷にするか……?」
ぶつぶつと独り言を言いながら思考を巡らせる青年だったが、悲しいかな、次に発せられる一言で完全に腰を折られるのである。
「コライオくーん、ユタちゃーん、クッキーが焼けたから一緒に食べよーう!」
「たべるー!!」
玄関までの道のりを回れ右してダッシュしていく子供たち。彼らが起こした風をひとりむなしく受けながら、青年はキッチンの方向を恨みがましく見つめるのであった。
「その話なら誰でも知ってるよー」
「じょーしきでしょ? 歴史の本じゃなくて絵本を読んで!」
「んなこと言われてもなあ。僕の家には魔導書と歴史書と小説ぐらいしかねーぞ」
ある晴れた日の昼下がり。まだあどけなさの残る顔立ちをした青年が、その風貌に似つかず存外乱暴な口調でこう言った。相対している二人の子供に読み聞かせていたのだろうか、全く絵本には見えない分厚い本をその手に持ち、ぱらぱらとめくっている。
「うーん、子供が知らなそうでいてかつ道徳的に良さそうな本なんて他にあるかな」
「ボク、歴史じゃなくてお兄さんの魔法が見てみたいな」
「わたしもわたしも! 魔導書があるってことは、お兄さんは魔法使いなんでしょ?」
子供たちは目を輝かせながら身を乗り出す。青年は少したじろぎこそしたが自分の職業に興味を持ってもらえるのは嬉しいようで、顔をほころばせながらそれに応えた。
「そうかそうか! 何の魔法がいい? 土? 雷? どっちにしても家の中じゃ危ないから外でやろうぜ」
「はーい!」
子供たちはひょこんとソファから降り、とことこと外へ向かった。青年も後ろからそれに続く。
「子供受けのする魔法っていやあ、やっぱ水魔法かな……いや、ここはインパクト重視で雷にするか……?」
ぶつぶつと独り言を言いながら思考を巡らせる青年だったが、悲しいかな、次に発せられる一言で完全に腰を折られるのである。
「コライオくーん、ユタちゃーん、クッキーが焼けたから一緒に食べよーう!」
「たべるー!!」
玄関までの道のりを回れ右してダッシュしていく子供たち。彼らが起こした風をひとりむなしく受けながら、青年はキッチンの方向を恨みがましく見つめるのであった。
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