残されたのはアメジスト【完結済】
黄昏時の臨海公園では、大きな太陽がゆっくりと海へ沈んでいた。やがて太陽は半円になり、少しずつ小さくなって最後にはその姿を消す。青い海と紺碧の空の境目へ、赤い帯を残して。
「綺麗だなあ」
その帯を掴もうと、ふらふらと頼りなさげな人影は一歩、また一歩と水の中へ足を踏み入れた。頭の中で反響している神秘的な歌に操られるようにして、徐々に、しかし確実に歩みを進める。
「そう、もっとこっちに来て」
人影の先では、人間と同じ上半身に魚のような下半身を持った美しい女性が海の中からゆったりと手招きしていた。アクアマリンの首飾りで彩られた彼女の喉からは、蠱惑的なメロディが紡がれている。途切れ途切れに流れるその旋律は、この世のものとは思えないほどぞっとするような美しさだった。
「ベリル……」
人影は穏やかな笑みを湛えて呟く。痛いほどまっすぐなその視線に一瞬女性は歌を止め、身じろいで人影から目を逸らした。時を同じくして、彼女の耳に雷声が届く。
『テラ=アクア!』
その瞬間、人影の周りから一滴残らず海水が消えた。驚く間もなく地面からゴーレムがのそりと現れ、人影を抱きかかえてとことこ去っていく。
「えっ? プラシオ!?」
先ほどの憂いを帯びた顔から一転、女性は愕然とした表情で辺りを見渡す。しばらくしたのち線の細い青年が彼女の前へやってきて、なんでもないような顔で右手を上げてこう言った。
「やあベリルさん、初めまして。プラシオさんの友人のカルメです。彼がお世話になったようで」
「綺麗だなあ」
その帯を掴もうと、ふらふらと頼りなさげな人影は一歩、また一歩と水の中へ足を踏み入れた。頭の中で反響している神秘的な歌に操られるようにして、徐々に、しかし確実に歩みを進める。
「そう、もっとこっちに来て」
人影の先では、人間と同じ上半身に魚のような下半身を持った美しい女性が海の中からゆったりと手招きしていた。アクアマリンの首飾りで彩られた彼女の喉からは、蠱惑的なメロディが紡がれている。途切れ途切れに流れるその旋律は、この世のものとは思えないほどぞっとするような美しさだった。
「ベリル……」
人影は穏やかな笑みを湛えて呟く。痛いほどまっすぐなその視線に一瞬女性は歌を止め、身じろいで人影から目を逸らした。時を同じくして、彼女の耳に雷声が届く。
『テラ=アクア!』
その瞬間、人影の周りから一滴残らず海水が消えた。驚く間もなく地面からゴーレムがのそりと現れ、人影を抱きかかえてとことこ去っていく。
「えっ? プラシオ!?」
先ほどの憂いを帯びた顔から一転、女性は愕然とした表情で辺りを見渡す。しばらくしたのち線の細い青年が彼女の前へやってきて、なんでもないような顔で右手を上げてこう言った。
「やあベリルさん、初めまして。プラシオさんの友人のカルメです。彼がお世話になったようで」