残されたのはアメジスト【完結済】

「それみろ、言わんこっちゃない」
「面目ないでーす……」

 たまたま持っていたタオルでイオニアの髪をがしがしとタオルドライしながら、カルメはぶっきらぼうに吐き捨てる。あの後何とか自力で水槽から這い出たイオニアだったが、全身くまなくびしょ濡れになってしまった。

「どうすっかな。流石にお前の着替え一式は持ってきてねーし」
「もしかして探偵所に帰るまでこのまま? 自業自得とはいえきっついよ〜」
「風魔法か火魔法を使えれば良かったんだが、生憎僕の魔力は土と水方面寄りなんでな。こればっかりは仕方ない」
「うへー……」
「大体見たいもんも見れたし、そろそろ帰るか。イオニア、今何時ごろだか分かるか?」
「えーっと、午後四時ちょっと過ぎかな」

 イオニアは懐から懐中時計を取り出して答えた。あらかじめ防水魔法をかけてある商品だったため、あの浸水にも耐えられたようだ。ほっと一安心しつつ時計をしまう。 
「微妙な時間だな。とにかく外に出ようぜ」
「はあい、お邪魔しましたー。……へっくし!」
 一足先に家を出たカルメに続き、くしゃみしながらベリルの家の鍵を閉めるイオニア。そのとき背後から鈴を転がすような、聞きなれない声がした。

「あ、あなたたち誰ですか? もしかしてどろぼー!?」
「いや僕たちはちょっと……なんて言えばいいんだろうな?」
 謎の声の持ち主と相対したカルメは、横目で後ろのイオニアの方を見ながら要領を得ない回答をする。この世界では『探偵』とかいう職業の認知度はほぼゼロに等しい。だからこそ、『婚約指輪を一緒に見繕ってほしい』などという何でも屋のような依頼も舞い込んでくるのだ。

「怪しい者ではないよ。俺たちはベリルさんの恋人の友達で、その人に頼まれてベリルさんのお家を調査してたんだ」
 イオニアは振り返りながらカルメの言葉を引き取る。目の前に現れたのは、人間のような身体に鳥のような手脚を持った女性だった。
「ベリルちゃんの彼氏さんのお友達……そういえばあの子の彼氏さんは人間でしたね」
 女性は目を閉じてうーんと考え込む。彼女は翼の先端を人間の指のように器用に折り曲げ、顎へ当てていた。

「ちょっと怪しいけど、いちおう信じます。でも、どうしてベリルちゃんのおうちで調査なんてしてるんですか?」
「それを話すと長くなるんだが……見たところあんたハーピーだろ? 全部教えるから、ひとつ頼まれてくれないか?」
「なんでしょう。わたしにできることならお手伝いしますが」
 とりあえず疑いを晴らしてカルメはほっとする。会話相手が異種族だと分かると、何を思い付いたのか彼はイオニアの肩をぐっと掴み、女性の前へ突き出して続けた。

「コイツの着替えを用意できるような場所へ、転移魔法で連れてってほしい」
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