残されたのはアメジスト【完結済】

「彼女は静かでぱっと見冷たい印象ですが、心根は誰よりもやさしいんですよ。なれそめだって、ボクが臨海公園で足を滑らせて溺れかかっていたところを助けてもらったのがきっかけです。それから一緒に浜辺を散歩したりして仲良くなって……って、なんか照れますね」
 人の良さそうな顔をふにゃりとほころばせながらプラシオは続ける。

「あとはお嬢様みたいな佇まいに似合わず意外と庶民的なものが好きで、大好物はカレーなんですよ。可愛いですよね」
「え~それはギャップ萌えだね! 他には他には?」
「あとは歌がとっても上手だったり、ボクのおっちょこちょいもおおらかに許してくれたり……」
「ほうほう、プラシオさんはホントに彼女さんが好きなんだね」
 イオニアはニコニコと相槌をうち、プラシオと談笑している。その横では、仏頂面のカルメがショーウィンドウに飾られた宝石をじっくりと品定めしていた。黄色く輝くシトリン、緑色の光を放つエメラルド、赤色を燃やすガーネット。そして、その隣の石を目に留めた彼は依頼人へ問いかける。

「プラシオさん、この石はどうでしょう。『愛の守護石』と評される、アメジストです。愛と慈しみの心を芽生えさせる石として有名ですよ」
「俺、そんな話聞いたことないんだけど……ホントに有名なの?」
「それはイオニア、お前が土魔法に精通してないからだ。宝石っていうのはそれぞれ固有の魔力とそれに伴う効力が備わっていてな。例えばさっき言ったアクアマリンは海難防止の効果を持ってるだろ? 土魔力を使って宝石の魔力に干渉することで、その効力を高めたり逆になくしたりもできるんだ」
「な、なるほど?」
 分かっているのかいないのか、イオニアはあいまいな返事を返す。その横では目を輝かせたプラシオがショーウィンドウを見つめていた。

「いいですね! 『愛の守護石』というのも婚約指輪にぴったりです。やっぱりカルメさんに頼んで正解でした!」
「でしょう? 今後ともぜひわが探偵所をごひいきに」
 ふふん、と満足げに目を閉じてカルメが答える。

「じゃあ指輪のデザインはイオニアに任せるぜ。僕は宝石そのものには詳しいが、アクセサリーはさっぱりだからな」
 適材適所ってやつだ、と付け加え、カルメはイオニアの肩をぽんと叩いた。

「りょうかい。じゃ、プラシオさん。行こうか」
「はい!」
 イオニアとプラシオは連れだって指輪の見本が飾られたショーウィンドウのほうへと歩いていく。カルメは店員を呼びつけて先ほどの石を預けたのちに、のんびりと彼らに続いた。
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