残されたのはアメジスト【完結済】
観光日和の港町レストール。とある貴金属店に、にぎやかな人影が三つ揺らめいていた。翡翠色の髪をした青年がひとつのルースを指さし、鉱物に関するうんちくを垂れている。
「……というふうに、昔は土魔法で宝石の持つ魔力の周波数をいじって、通信魔法にしていたんだ。尤も、今は魔力伝達線を使った魔具でやるのが普通だが」
青年の名はカルメ。町の郊外で『ローシャ探偵所』という奇怪な事務所を構える魔術師だ。
「なるほどー。そう言われれば魔法道具論の授業で聞いたことあるかも」
その隣でふんふんと感心している少年、イオニアはこの町にある騎士学校の生徒である。
「だろ? 宝石魔法によるメッセージの伝達は土魔法を扱える奴にしか出来ないから、魔術の研究が進んでいくうちに廃れていったんだ。魔力伝達線が開発されてからは、魔法が使える使えないに関わらず誰でもこういう機能のついた魔具を使えるようになっていったという訳さ」
「ふーん。じゃあもう宝石魔法でメッセージを送るのは時代遅れってこと?」
「そういうわけでもねーんだ、コレが。この前、女たらしな僕の友達が彼女でもない女友達にアクセサリーを贈ってたんだが、そのアクセサリーの宝石に歯の浮くような愛の言葉を込めてたのを見たぜ。アレはちょっと引いたけど、婚約者に贈るプレゼントにそういうメッセージを込めるっていうのは中々粋でいいんじゃないか? ……どうでしょう、プラシオさん?」
カルメは先程よりもきっちりとした振る舞いと言葉使いで、傍らの青年へ話を振る。今回カルメたちはプラシオという青年の依頼で、彼の恋人へ渡す婚約指輪を見繕いにきていたのだった。
婚約指輪のメインを飾るのは、やはりきらりと輝く宝石。とはいえ、普段アクセサリーをつける機会のないプラシオは宝石や指輪の良し悪しが分からず、途方に暮れていた。そこで彼は、土魔法やそれに属する宝石魔法に詳しい魔術師であるカルメを頼ってきたのである。
「そうですねぇ。ボクが魔法を使える人間だったら良かったんですが、生憎そっち方面はさっぱりでして」
プラシオは残念そうに首を振る。それを見たカルメは意外そうに目を丸くした。
「あれ、おかしいな……?」
「どうしたの、カル兄」
「いや……。まぁそれはさておき、この石なんてどうです?」
カルメは軽く頭を振り、話題を戻す。彼が指差したのは淡い光を湛えたアクアマリンだ。
「アクアマリンは船乗りたちの間で海難を防ぐためのお守りとして重宝されています。海では嵐などの悪天候はもちろん、海賊や魔物が船を襲ったりするのでこれを持っていると少しは安心できますよ。また、この石は『海底の妖精の宝物』とも言われています。そういったロマンチックなものが好きな女性の方には好まれるかもしれません。ま、実際は妖精なんかじゃなくて、海底にいる水棲魔族の落とした石が潮の流れで浜辺に打ち上げられただけでしょうが」
「カル兄って絶対モテないよね」
すらすらと説明するカルメに向かってイオニアが茶々を入れる。まったく、俺の従兄はどうしてこうも情緒がないのか。イオニアはフォローに回ろうとプラシオの方へと向き直った。
「事実はどうあれ、綺麗な石には変わりないよ。どうかな?」
「そうですね。けど彼女、確かもうアクアマリンの首飾りを持ってるんですよ。いつも肌身離さずつけているので、よほど大事なものだと思うんですよね。使われる宝石がそんなものと被ったらまずいかもなぁ」
プラシオはうーん、と唸って思案を巡らせている。確かに、一世一代の贈り物である婚約指輪に見慣れた宝石がくっついていたら、驚きも半減だろう。良いプレゼントを選ぶにはまず相手を知るべき。そう考えたイオニアはプラシオに問いかけた。
「その彼女さんって、どんなひとなの?」
「……というふうに、昔は土魔法で宝石の持つ魔力の周波数をいじって、通信魔法にしていたんだ。尤も、今は魔力伝達線を使った魔具でやるのが普通だが」
青年の名はカルメ。町の郊外で『ローシャ探偵所』という奇怪な事務所を構える魔術師だ。
「なるほどー。そう言われれば魔法道具論の授業で聞いたことあるかも」
その隣でふんふんと感心している少年、イオニアはこの町にある騎士学校の生徒である。
「だろ? 宝石魔法によるメッセージの伝達は土魔法を扱える奴にしか出来ないから、魔術の研究が進んでいくうちに廃れていったんだ。魔力伝達線が開発されてからは、魔法が使える使えないに関わらず誰でもこういう機能のついた魔具を使えるようになっていったという訳さ」
「ふーん。じゃあもう宝石魔法でメッセージを送るのは時代遅れってこと?」
「そういうわけでもねーんだ、コレが。この前、女たらしな僕の友達が彼女でもない女友達にアクセサリーを贈ってたんだが、そのアクセサリーの宝石に歯の浮くような愛の言葉を込めてたのを見たぜ。アレはちょっと引いたけど、婚約者に贈るプレゼントにそういうメッセージを込めるっていうのは中々粋でいいんじゃないか? ……どうでしょう、プラシオさん?」
カルメは先程よりもきっちりとした振る舞いと言葉使いで、傍らの青年へ話を振る。今回カルメたちはプラシオという青年の依頼で、彼の恋人へ渡す婚約指輪を見繕いにきていたのだった。
婚約指輪のメインを飾るのは、やはりきらりと輝く宝石。とはいえ、普段アクセサリーをつける機会のないプラシオは宝石や指輪の良し悪しが分からず、途方に暮れていた。そこで彼は、土魔法やそれに属する宝石魔法に詳しい魔術師であるカルメを頼ってきたのである。
「そうですねぇ。ボクが魔法を使える人間だったら良かったんですが、生憎そっち方面はさっぱりでして」
プラシオは残念そうに首を振る。それを見たカルメは意外そうに目を丸くした。
「あれ、おかしいな……?」
「どうしたの、カル兄」
「いや……。まぁそれはさておき、この石なんてどうです?」
カルメは軽く頭を振り、話題を戻す。彼が指差したのは淡い光を湛えたアクアマリンだ。
「アクアマリンは船乗りたちの間で海難を防ぐためのお守りとして重宝されています。海では嵐などの悪天候はもちろん、海賊や魔物が船を襲ったりするのでこれを持っていると少しは安心できますよ。また、この石は『海底の妖精の宝物』とも言われています。そういったロマンチックなものが好きな女性の方には好まれるかもしれません。ま、実際は妖精なんかじゃなくて、海底にいる水棲魔族の落とした石が潮の流れで浜辺に打ち上げられただけでしょうが」
「カル兄って絶対モテないよね」
すらすらと説明するカルメに向かってイオニアが茶々を入れる。まったく、俺の従兄はどうしてこうも情緒がないのか。イオニアはフォローに回ろうとプラシオの方へと向き直った。
「事実はどうあれ、綺麗な石には変わりないよ。どうかな?」
「そうですね。けど彼女、確かもうアクアマリンの首飾りを持ってるんですよ。いつも肌身離さずつけているので、よほど大事なものだと思うんですよね。使われる宝石がそんなものと被ったらまずいかもなぁ」
プラシオはうーん、と唸って思案を巡らせている。確かに、一世一代の贈り物である婚約指輪に見慣れた宝石がくっついていたら、驚きも半減だろう。良いプレゼントを選ぶにはまず相手を知るべき。そう考えたイオニアはプラシオに問いかけた。
「その彼女さんって、どんなひとなの?」