消印のない手紙【完結済】

「この料理……素朴な素材を使っているが味付けが丁寧で美味しいね」
「でしょ? 俺のお気に入りなんだ」

 カルメと戦士の一悶着が片付いた後も、彼らは食事を楽しんでいた。
「ん? なんか出入口辺りが騒がしくねぇか?」
 カルメの言葉を聞いて二人も酒場の出入口へ目を向けた。そこでは昼間の酒場には似合わぬ高貴な服装の女性を、先ほどの戦士に輪をかけてガラが悪く小汚い服装の男たちが囲い込んでいる。

「ようようお姉さん暇そうだなァ。オレ達と一緒にイイとこ行こうぜ?」
「なっ、なんなの貴方達! 私は全然暇じゃないわよ!」
 女性は懸命に振りほどこうとしているが、男たちの勢いに圧倒されてみるみるうちに酒場から連れ出されてしまった。

「この酒場に来るのはナンパ撃退ぐらいわけない奴ばっかなのに……珍しいな」
 カルメはそう言って酒の残りをすすった。他の客も手を止め、ぽかんと出入口に顔を向けている。

「ちょっと心配だね。様子を見に行った方がいいかも」
 イオニアは眉をひそめた。ふと隣にいるアイセルの顔を見ると、不自然なほど青白い色になっている。
「アイセルさん、どうかした?」
「この声、サリムさんかもしれない……!」
「え? 知り合いか?」
「私の婚約者であり、今回の旅行の同行者だよ。どうしてたった一人でこんなところまで」
「……もしかして、アイセルさんを追いかけてきちゃったんじゃ」
「貴族の令嬢が一人きりで!? ずいぶん肝が据わってんな」
「こうしちゃいられない! 助けないと!」
「ちょっと! 待ってアイセルさん!」
 アイセルは単独で酒場の出入口へと駆けてゆく。あわててイオニアも追いかけ外へ出ていった。

「くそ、運動ガチ勢め……!」
 手早く勘定を済ませたカルメだったが、既に剣士たちの姿はない。彼はアイセル達の足跡を手掛かりにして走り出した。
12/18ページ