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短文置き場

付き合ってないルゾロ

2024/03/03 20:40
海賊
ナミにはしばしばそんなところに乗ったら危ないと言われているけれど、海賊になったからには自分が進む道を見ていたい。それでルフィは今日も何をするでもなく、羊の船首の上に乗っかって、航路を眺めていたい。
「なールフィ!釣りしねェか?」
背後からウソップの声がする。釣り。釣りかァ、とルフィは海面を覗き込んだ。偉大なる航路にしては比較的穏やかな海域で、きっと魚も多くいる。釣れるのならやってもいいかと思い、ルフィは振り返った。
「やる!」
ゴムの腕を伸ばして柵を掴み、縮めて甲板に戻る。ウソップが釣り竿を差し出してくるので受け取った。どうやら今日はチョッパーも一緒にやるらしい。
三人は連れ立って、右舷がわに腰を下ろした。釣り針に餌のパンを刺しながら、チョッパーが言う。
「さっきゾロの腕さわらせてもらったんだけど、すごかったなぁ」
「ゾロの腕?」
ルフィは首を傾げた。本人は今現在甲板で大口開けて眠っている。昨晩のゾロは見張りのために徹夜だった筈なので、特にお咎めもなかった。もっとも、見張り担当でなくても、ゾロは昼間からよく眠る男だが。
「たしかにゾロの筋肉、ガッチガチだったなー」
ウソップが、腕を曲げてぐっと力を入れる。二の腕にうっすらと筋肉が盛り上がった。なるほど、ゾロはこれをやって、ウソップとチョッパーに触らせたのだろう。
東の海の魔獣、海賊狩り、そう呼ばれていたゾロは、三刀流の剣士であるが、一味で一番の怪力でもある。出会ってすぐ、鉄の檻に入れられたルフィを、檻ごと担いだのには驚いた。しかもあのときゾロは、バギーのせいで腹を貫通する傷すら負っていたのだ。こと上半身は鍛え抜かれた筋肉で覆われている。それ比べると、ウソップの腕はいかにも未発達だった。
ルフィは釣り糸を海に垂らして、それから首を傾げた。ウソップとチョッパーがルフィを挟んで船べりに座り、釣りを始める。あとは反応があるまで待つばかりだ。
「あのよ」
「おう」
ウソップは律儀に返事をしてくれた。ルフィはふたりの話を聞いて、妙だと思ったのだ。
「ゾロの筋肉、すげェやわらかいぞ?」
するとウソップは怪訝そうに眉をひそめた。
「何いってんだルフィ、ゾロのここ(と言いながらウソップは釣り竿を脚で挟み、再び右腕で力こぶを作り、左手で自らの上腕を示した)すげェ硬かったぜ」
「そりゃゾロが力入れてたからだろ」
「力入れなきゃ力こぶはできねェからな」
「力はいってないと柔らかいのか?」
チョッパーが首を傾げる。
「それもちょっと触ってみてェな……」
素直な願望に、ウソップも頷く。じゃあ釣りが終わったらまたゼロのところに言ってみようという話になり、三人は釣りに戻ることにした。


さて、三人に見下されているゾロは変わらず大口を開けて眠っている。ルフィがそのまましゃがみこむと、ウソップとチョッパーも従った。
「起こすのか?」
チョッパーが小声で尋ねる。
「いいんじゃねェか、起こさなくても」
ルフィがいつも通りの声で答えた。起こして「お前の筋肉触らせろ」と言ったところで、ゾロは「ンたことのために起こすな」というだけであろう。
そのままルフィは人差し指をゾロの白いシャツに覆われた胸に押し付けた。弾力はあるものの、指はゾロの筋肉に沈む。
「おー」
ウソップとチョッパーが感嘆の声を出す。おれも、とふたりは指で(チョッパーは蹄で)ゾロの胸を押した。女の乳房とは違った柔らかさであるが、確かにさっき触った力こぶに比べるとずいぶん柔らかい。
「すげェ〜」
チョッパーは何度か蹄を押し付けてみる。
「いや、チョッパーの“重量強化”のときもこれくらい筋肉あるんじゃねェか?」
「そうかもしれねェけど、自分の筋肉なんか触ったことねェし」
「今度はチョッパーが柔らかいか確認しねェとな」
そんな会話をしながらも、三人はゾロの胸筋を押し続けていた。それでもゾロは眠り続けている。この戦闘員ときたら敵が来ればすぐに立ち上がるのに、仲間に対してはまったくガードが効いていなかった。
そうして三人はサンジがおやつの時間を告げるまで、ゾロを触りながらくだらない話を続けたのだった。


「ゾロのここ、前よりもっとやわらけェよな」
ルフィはゾロのうえでマウントポジションを取りながら、剥き出しの胸筋に指を沈める。二年間の修行でゾロはますます逞しくなっていた。ルフィだって鍛え抜いてはいるが、ゾロの胸は以前より大きく膨らんで、ますます頼りがいがあるものになっている。
「硬くしてもいいぞ」
ゾロが筋肉に力を入れれば、ルフィの指だって沈む余地がなくなるほど硬くなる。ルフィは「いまはいい」と言いながら、未だゾロの筋肉を堪能している。
「前によ、ウソップとチョッパーにゾロの筋肉柔らかいぞ、って教えたことあったんだけどよ」
「は?何の話だ」
ゾロの記憶では、ふたりに腕の力こぶを触らせたことがあった。ふたりともガチガチだ、と随分と驚いていたことがある。ゾロからしてみれば筋肉など日々の鍛錬と戦いで勝手に成長しているものであり、強くなれさえすればついてもつかなくてもどうでもいいのだが、ふたりの感嘆は悪くない気分だったことを覚えている。
「メリー号だったころ、ゾロの筋肉が硬かったって言うから、ちげェぞ、力入ってねェとやわらけェぞって三人でゾロのここ触ったんだ」
「知らねェぞ」
「ゾロ寝てたし」
人が寝ている間に勝手に別の人間にからだを触らせるなど、まったく喜べるようなことではない。しかしゾロにとってはどうでもよかった。相手が家族同然の仲間であるチョッパーとウソップなら、大して不快でもない。
「じゃああいつらにまた触らせてやるか」
ゾロはルフィの黒髪を梳くようにして頭を撫でてやりながら、口元を緩めた。ゾロはウソップやチョッパーに褒められるのがそう嫌いではない。――いや、口には出さないが、好きである。
「うーん」
ルフィはなおゾロの胸を揉みながら、首を傾げた。
「いらねェだろ、ウソップだってもう筋肉ついてるし、チョッパーだって変身すればムキムキだしよ」
「そうか」
ゾロは少しばかり残念そうな声を出した。それからルフィの髪を柔く引く。
「じゃあお前だって筋肉ついたし、触らなくていいんじゃねェのか」
「え!」
確かに、ルフィの理論からすればそういうことになる。ルフィは驚いたように瞬きをして、それから眉を寄せた。
「それは違ェんじゃねェのか!?」
「なにがだよ」
「おれは船長だぞ」
「そうだが、船長が船員の筋肉揉まなきゃいけねェ決まりはねェだろ」
そもそも、そんなルールがあったとして、ナミの胸に触ろうものなら激しい折檻が待っていることは想像がつく。ではどうしてルフィはゾロの胸から未だに手を離さないのか。
「ゾロはおれに触られるの嫌なんか」
「嫌ならとっくに殴ってるが……、」
それもそうだろう。ゾロは嫌なことは嫌だとはっきり言う男だし、なんなら今はルフィの頭を撫でている。総合すると、どうやらゾロは他人に筋肉を触られるのに忌避感はないらしい。――それがある程度親しい仲であれば。
「なにがそんなに楽しいんだ」
「わかんねェけど、ゾロに触ってると嬉しいんだよな」
「なんだそりゃ」
ゾロは不可解そうに眉を寄せたが、ルフィはそれでもなお手を止めない。そのうち飽きて眠くなるだろう、とゾロはしばらくルフィの好きにさせてやることにしたのだった。

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