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短文置き場

ぎゅっとしたいルゾロ

2024/03/03 20:32
海賊

モンキー・D・ルフィには、最近とみに不満に思っていることがひとつだけある。
行きたいところにはナミが連れて行ってくれるし、ウソップが作る発明品は、広大な海を進む船の上でもルフィを飽きさせることはない。いつだってサンジの作るメシはうまいし、チョッパーがいるから怪我や病気も安心だ。ロビンは海賊王への道を紐解き、フランキーは無茶な航海でも動じず船を直してくれる。歌いたくなればブルックが音楽を演奏してくれるし、戦闘面でも精神面でも、仲間にジンベエがいる安心感ときたら! そう、四皇となったルフィの船路はまさに文字通りの順風満帆、偉大なる航路の後半であるのに、意気揚々と海を渡っている。だというのに、その“不満”がどうにも解消されない。ルフィは一刻でも早くそれを手放したい、と考えている。

その日は補給のために船を降りて、宿を取ることになった。自分を除く船員に質素倹約を迫るナミは、四皇たるルフィにも安宿しか用意してくれなかった。おまけに二人部屋だ。後者は、むしろルフィの希望通りではあるが。
同室になったのは、ルフィの最初の仲間、ロロノア・ゾロである。ずっと隣でルフィを支えてくれた、誰より信頼できる相手であり――気が付けば性交までする仲になっていた。だが、それもルフィにとっては当然のことだ。ゾロを見つけたあのとき、ルフィは絶対にこいつを脅してでも仲間にしなければいけないと思った。決して何もかも全てが通じ合っているわけではないけれど、同じく高みを目指す身として、その性根が、肉体が、ルフィととかく相性がよい。出会ったその日にふたりで過ごした小舟で、狭さゆえにいたしかたなく初めてからだをくっつけて寝転がったとき、その違和感の無さは逆に互いを戸惑わせたほどであった。生まれる前にはひとつだったみたいに、ふたりの体温はちかしかった。いつしかルフィはゾロと唇を合わせたり、性器やほかの部位を触り合ったり、そしてほんとうにひとつになろうとしたりするようになった。そしてゾロは、それをすんなり受け入れて、しかも素直に悦んでみせた。元来たったひとりで海を渡り、孤独など少しも畏れない男が、ルフィとの触れ合いに喘ぐのを、ルフィはこの上なく嬉しく思ったものだった。
そして、ルフィの現在の“不満”はまさにゾロとの性交にあった。

「ア、ァ……、」
ゾロが小さく声を上げて達する。互いに座った体勢でゾロと正面から繋がっていたルフィは、ぎゅうっとゾロのからだを抱きしめた。ルフィは性交のとき、できるだけ自分とゾロの肌が触れ合う面積を広くしたいと思っている。特にこうして、気持ちがいいときは。
「ぞろ……」
密着したまま耳元で名前を呼ぶと、ゾロが「んっ」と小さな声を出す。思わず、ゾロに抱きつく腕に力が入る。こうしていれば、いつか本当にひとつになれるんじゃないか、ルフィはそう夢想したが――、
だけど、これじゃ無理だろうな、とも思う。ルフィは舌と舌を絡めながら、目前のゾロの瞳を見る。快感にとろけきり、表面が濡れている。だが、ゾロの腕がルフィの背中に回ってくることはない。これだけ、全身で気持ちいいと訴えているくせに。
そりゃあ、ゾロは自分から人に甘えるようなやつじゃない。自分にも他人にも厳しいのはゾロの長所であるし、ルフィはその叱咤で船長の自覚を強めてきた。それに、情事の最中に好意を明らかにするのを恥じる性格でもある。わかっていて、だけど納得できない。つまりルフィは、ゾロにぎゅうぎゅうに抱き締められてみたいのだ。この筋肉が張り詰めた、熱い体温にしがみつかれてみたい。だがルフィがどれだけゾロを抱き締めたとて、それが叶うことはない。ゾロを寝かせて性交に及ぶと、ゾロはシーツにしがみつく。こうして自分の上に乗せるのであっても、ゾロは自分の腕を下に降ろしたままだ。
「る、ふぃ」
ゾロが名前を呼んでくれて、ルフィは自分の背中にぞくぞくしたものが走るのを感じた。ゾロは自分から「好き」と積極的に言うではないが、その声音から感じ取れるものはその感情以外なにもない。
ここで抱きしめてしてほしいと言えば、ゾロは仕方ねェなと肩をすくめて、してくれるのかもしれない。ルフィはふとそう考えた。そうだ、してほしいならそう言えばいい。ルフィはゾロの鼻先に唇で触れた。それからゾロの耳元で、項を撫でてやりながら言う。
「なぁゾロ」
「ん」
「おれ、ぞろにもぎゅ〜ってしてもらいてェな」
ついに言うと、ゾロは隻眼をゆっくりと二度、瞬かせた。それから、至近にあるルフィの目を見つめる。
「……でき、ねェ」
「なんでだよ!」
思わず声を上げると、ゾロのなかがきゅうっと締まる。ゾロははっ、と息を吐いて、また瞬く。
「お、前が、おれをぐるぐる巻きにしてるから、だろ」
「え?」
言われてようやく気がついて、ルフィは自分とゾロのからだを見下ろした。――ゾロとくっつきたいあまりに、ゴムの腕を本来の長さから何倍も伸ばして、ゾロの腕ごと抱きしめていたのだ。たしかにこれでは、ゾロがルフィの背中に腕を回せるはずもない。
「ししし、わりーわりー」
ルフィはしゅるんとゴムの腕をもとに戻した。開放されたゾロの腕が、希望通りに伸びてくる。ルフィは思わず「おー」と感嘆の声を上げてしまった。だって、ずっとわだかまっていた“不満”がようやく消えたのだ。ゾロははぁ、と息を吐く。
「……おれ、だって」
ゾロが呟いたのを、ルフィは聞き逃さなかった。
おれだって。
「ゾロ」
先を促すために名前を呼ぶと、ゾロが唇を引き結ぶ。案の定恥ずかしがっているようだ。だけど、ルフィはゾロが言いたかったことをちゃんとわかってしまった。それでルフィは、また腕を伸ばして、ゾロのからだと自分のからだまでまとめてぐるぐる巻きにしてやったのだった。


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