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短文置き場

未来服ルゾロ

2024/03/03 20:31
海賊
「そういやよ、あいつ――なんだかんだ船にいたカリブー」
「ああ、あいつな」
魚人島に行く途中に出会ったカリブーだが、ワノ国で再会した後この船に成り行きで乗せていたのだった。ルフィは彼の顔を思い出そうとした。そこそこ顔を合わせていたはずなのに、ぼんやりとしか思い出せない。
「とりあえずサニーから降ろした、いいよな」
「おう、別にいいぞ」
カリブーが聞いていれば「情がない!」と叫んだかもしれないが、ルフィはさほど彼に興味があったわけではない。ワノ国の戦いでは食糧を譲ってもらったこともあったが、そもそも出会い頭に命を狙われたこともあり、彼を恨むつもりはないが、好いてもいなかった。ゾロが船から降ろしたのなら、それでいいだろう。ルフィは鷹揚に頷いた。
エッグヘッドに上陸してから、船番をしていたゾロやブルックと結局ラボで合流することになった。しかしこの島ではなんだかんだとずっとバタバタしており、結局一味はそれぞれ人探しに出ていってしまった。残されたのは疲れ切ったルフィと、人探しなどに出したらミイラ取りがミイラになること確定のゾロだけである。
エッグヘッドでは、ベガパンクが作った機械で全員が着替えている。別れたときはいつものコートを着ていたゾロは、今はからだにぴったりした黒いスーツに、大きなサイズのジャケットを着ていた。三本の刀は背負う形になっている。
「ゾロはウソップと同じやつなんだなー」
あの機械がどういう仕組みになっているのかルフィはよくわからないが、出てくる服はいくつかパターンがあるらしい。ルフィはブルックと同じで、ロングコートを着た格好である。
「なァ、それって、トイレ行くときどうすんだ?」
思いついた疑問を口にすると、ゾロが自らの姿を見下ろした。ルフィもゾロも、自分も他人もファッションに頓着しないのだが、さすがにトイレに行けないのは困る。ルフィはコートの下にいつものデニムを着ているだけなので、問題ないのだが。
「どうすんだろうな」
ゾロは自分のからだをぺたぺたと触ってみるが、前にファスナーやボタンなどはついていない。股間のあたりを触っていても、つるりとした生地が覆っているばかりだ。縫い目すらどこにもないというのは、いったいどういうことなのだろう。
「脱げねェのか?」
「そうみてェだ」
「じゃあ、ゾロ、このままションベン漏らすのか?」
「馬鹿言え、漏らすわけねェだろ」
「だって脱げねェんだろ」
ゾロは反論できずに黙った。皆が探しにいったというベガパンクが戻ってきたら、取っ捕まえて脱ぐ方法を訊かなければ。ゾロは密かにそう決めた。そもそも、この服はどうにも落ち着かない。ゾロはあまり首元がしまる服装が得意ではないし、刀が背中にあるのも、いつものように抜けないから気に入らない。なにより、腹巻きもないし――。
「おれはゾロが漏らしても気にしねェぞ!」
ルフィは無邪気にそんなことを言うが、ゾロは顔をしかめることしかできなかった。
「おれが気にするわアホ、あいつら、さっさとベガパンクとやらを連れ帰ってこねェかな」
「なんでだよ」
「こんな服とっとと脱ぎてェだろ」
「それはだめだろ」
ルフィは咄嗟に口から出た言葉に自分で首を傾げる。ゾロにこの服を脱いで欲しくないと思ったのは事実だが、理由が自分でもわからない。ゾロのほうも訝しげに眉を寄せた。
「だめとはなんだだめとは」
「いや、なんつーか、せっかくの不思議服だしもう少し着ててもいいんじゃねェか」
言いながら、ルフィはなんだか自分の発言がやけに言い訳がましいことに気がついていた。
「仕組みがわかんねェモン着てるほうが不気味だろ、早くいつものに戻りてェ」
「でもよ、フランキーとか、喜んでたしよ」
「…………ルフィ」
ゾロの声が低い。自分の必死さが露呈しているらしい。ルフィにだって、気まずいと感じるこころくらいはあるのだ。なにが、どうして、ゾロにこの服を脱いで欲しくないと思うのか、ちゃんと言わなければ。ルフィはゾロを上から下まで見た。脱いでほしくない理由を探す。ゾロのほうも、じろじろとルフィに舐め回すように見つめられて、少しばかり居心地が悪くなってきた。
「なんなんだてめェは」
「ぞ、ゾロはおれがこの服脱いでもいいのかよ」
「は、おれ?」
まさか自分のほうにこの話題が回ってくるとは思わず、ゾロは片目を瞬かせた。ルフィの服。赤いロングコートに大きなブーツ、それから耳には謎の機械がついている。これまでいろんな格好をしたルフィを見たことはあるが、似たところでいうと、パンクハザードで追い剥ぎをして手に入れた縞模様のコート姿が近いだろうか。こういう服を着ていると、ルフィは少し幼く見える。有り体の言葉で言えば――、まで考えて、ゾロは急に羞恥を感じた。おれになにを言わせるつもりだ、こいつ。
「別に、着たきゃ着てりゃいいし、脱ぎたきゃ脱ぎゃいいだろ」
「ゾロはジョウチョがわかんねェやつだな」
ゾロは突き放したようなことを言ったが、ルフィはやれやれとばかりに呆れた声を出す。さっきまで困ってたくせに何様だ。
「おれはわかったぞ、ゾロ、その服かっけーから脱ぐな!」
「か、っけー?」
これが? ゾロはその感覚がわからず、自分の服装をふたたび見下ろした。ルフィがおう、と自信満々に頷くので、じゃあそういうものなのだろうか、と飲み込むことにした。よくはわからないが、ルフィがそう言うのならそうなのだろう。
「じゃあまァ、お前は、……可愛い、かもな」
ルフィへの意趣返し――本心であるが――のつもりでそう言うと、ルフィが「おれもかっけーだろうが!」と反論してくる。そういうところだぞ、とゾロは肩をすくめるまでにしてやった。


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