短文置き場

ライナー(AOT)

2020/08/25 18:32
その他


「本当にいいの?」
「ああ」
言いながらうなずくと、瞳を輝かせたガビがさっそくフォークで鶏肉を突き刺した。ファルコやウド、ゾフィもそれに倣って目の前の皿の上の料理を食べ始める。朝から晩まで訓練に打ち込む彼らの食欲ときたら壮観で、ライナーはそれを見ながら小さくちぎったパンを口に含んだ。よく咀嚼し、飲み込んで、それを胃に流し込むように、水を飲んだ。
「ブラウンさんは食べないんですか」
ファルコが目ざとくそう尋ねてきた。優しいこどもだと思う。……戦士にするにはあまりにもったいないほどだ。ライナーは「兵舎で食べてしまって腹が減ってないんだ」と肩をすくめた。ファルコが気まずそうな顔をする。もしかしたらこちらの財布の心配をしているのかもしれない。さすがにそれには及ばないが、あえて口に出すのも野暮な気がして、ライナーはなにも言わなかった。
「ライナー、やっぱりおいしい! 寮のご飯は薄味すぎるよね」
「俺がいたころからそうだったな」
「コックは変わってないのかな」
「変わってないんじゃない?」
若いというよりは幼い彼らは、すでに鍛え抜かれた軍人だ。しかし食事の前ではそこらのマーレ人の、ぬるま湯で暮らす子どもたちとなんら変わらない表情を見せる。だからこそ彼らを守らなければならないことを、ライナーは自覚していた。

「ごちそうさまでした」
店の前で、四人の子どもたちが頭を下げる。財布の中はすっかり軽くなってしまった。後悔はないが、苦笑は漏れる。
「また誘ってね、ライナー!」
ガビは機嫌よく笑った。ファルコが嗜めるような顔をするが、ライナーは「そうだな」とうなずく。命の危険に見合わぬ薄給とはいえ、ライナーにとって金を使う当ては実家への仕送りか、この子どもたちへの奢りくらいのものだ。
官舎に戻り、ベッドに横になる。大柄なライナーでも悠々と脚を伸ばせるベッドで、ライナーはさっき食べた数枚の肉が、胃の中で唐突に膨らんだかのような重たさを感じていた。あいつらも俺たちのように――考えながら目を閉じると、あの作戦中に死んだ、いや殺されたベルトルトの顔が浮かび、そうするともう駄目だった。口許を抑えながらからだを持ち上げる。この貧しい身の上で食べたものを吐き出すなど、とんだ贅沢だ。分かっているはずなのに、喉元に胃液が遡るのを抑えれない。
早く死にたい。できるのなら彼らを守って死にたい。それも高望みか。ライナーは立ち上がると、部屋のドアを開けた。




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