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短文置き場

現パロキドキラ(屋上組もいるよ)

2023/11/19 15:28
海賊
※原作に出てない呼び方は捏造しています※
※キッドが女性と交際する描写があります※

「ギザ男、まーた別れたのか!いつぶりだ?」
目をまん丸くした麦わら屋が、ほんの少しの屈託もなくユースタス屋の傷を抉る。ユースタス屋が「うぐ」と唸った横で、隣の席でスプライトを啜っていたキラー屋が「この半年で三人目だ」と言う。麦わら屋は「ほんとに長続きしねェな!」とまたも悪気なく笑い、さすがにゾロ屋にたしなめられていた。ユースタス屋はまた大きくため息をつく。放課後、ざわつくファストフード店の前で麦わら屋とゾロ屋のペアとユースタス屋とキラー屋のペア、そしておれはばったりと顔を合わせてしまった。おれはここでコーヒーでも飲みながら課題を片付けようと考えていたにも関わらず、あれよあれよとこいつらアホ四人と相席にされていたのである。一応テキストとノートを開き、四人の会話には入らないと決めたが、それでも耳に入ってきてしまう。無視するには議題が気になりすぎる。
「で、今度はどういう理由だ」
いかにも愚痴を言いたそうだったユースタス屋に、仕方なしというふうにゾロ屋が訊ねる。麦わら屋もゾロ屋も、人の恋愛事情になど興味がないタイプであるのに話を聞こうとするのは、同情なのかからかおうとしているのか。多分どちらでもある。
「……おれが浮気したってよ」
「浮気したのか?」
「してねェ!!」
でけェ声出すな。騒がしい店内ではそれでも注目を浴びないで済んだが、勉強の邪魔だ。だがまあ、ユースタス屋の苛立ちも最もだった。していないことをしていると思い込まれるのは全く腹の立つことだ。そしてこいつのいかにも粗暴な外見に反して、意外に情に篤いところも知ってはいるつもりだ。救いようのないバカであふこともまた事実ではあるが。
「じゃあなんで浮気したと思われてンだよ」
ゾロ屋が訝しげに訊ねる。ユースタス屋は横目でちらりと隣のキラー屋を見てから口を開いた。
「……キラーの歯ブラシが洗面所に置きっぱなしだったんたよ」
「おれかよ」
キラー屋が苦笑する。「ちゃんと相手に男のだって言ったのか?」
「言ったに決まってんだろ! この前泊まりに来た幼なじみのだって」
「信じてもらえなかったのか」
「……あァ」
キラー屋の問いに、神妙な顔でユースタス屋が頷く。さすがに哀れみをそそられたか、麦わら屋もゾロ屋も黙っていた。おれはキラー屋のほうに視線を向ける。相変わらず長い前髪とマスクで殆ど顔が見えない。おれは黙って再びテキストに視線を向ける。
「次の彼女ができたら、お前の部屋に行くのはやめるか」
「なんでだよ」
「おれの歯ブラシが勘違いさせたんだろう。再発防止だ」
「次はキラーの歯ブラシも隠す」
「隠した歯ブラシ見つかったときのほうがマズそうだなー」
麦わら屋がいつになく核心を突いたことを言う。だがおれは話を聞いていて、ひとつの結論が見えつつあった。それを指摘してもいいのかどうかに迷いはあったが、さすがに半年に三人と別れているのは可哀想だという思いもあった。
「あー、ユースタス屋」
「ンだよ」
喧嘩腰に返ってくる。いつもよりしおれた赤い髪ではまるで恐ろしくもなく、おれは口を開いた。
「今度の女には、最初にキラー屋を紹介したらどうだ」
おれの見立てはこうだ。女がユースタス屋の弁明を信じなかった理由は、部屋に長い金髪が落ちていたからではないか。当然それはキラー屋の髪であるが、キラー屋を知らなければ、他の女を部屋に上げたと勘違いするのはほとんど当然であった。
ユースタス屋とキラー屋はガキの頃からの幼なじみで、相棒と呼びあっている。互いの部屋を行き来し泊まるなど日常茶飯事の仲の良さは、恐らくユースタス屋からすれば彼女にも劣らない。いや、それ以上だろう。
「なんの意味が?」
ところが、それを訊いてきたのは当のキラー屋だった。なんの意味が、って、他の三人に比べればよほど聡いお前ならわかるだろうが、と眉を寄せる。キラー屋の表情は見えにくい。もしかしなくても、怒っているのか?おれは答え難くなって、思わず口を噤む。するとハンバーガーを三個平らげたあとの麦わら屋が口を開いた。
「おれも新しい仲間にはゾロ紹介するぞ! ギザ男もやりゃいいじゃねェか!」
言いながらゾロ屋と肩を組む。ゾロ屋が「やめろ」と言うがまったく効果はないようであった。ゾロやのシャツの肩口が、麦わら屋の指先についていたケチャップで汚れて、ゾロ屋が顔をしかめる。それからため息をついてキラー屋のほうを見る。
「てめェもギザ男の女くらい確認してやりゃあいい」
「ファッ――、おれは姑か」
「さァな、お前がそのつもりならそうなるかもな」
ゾロ屋はそれだけ言うと、自分の肩から麦わら屋の手を外しにかかる。キラー屋は肩を竦めて、ユースタス屋のほうに視線を向けた。
「じゃあまァ、次はその作戦でいくか?」
「あァ、キラー、頼む!」
ユースタス屋は素直にそう頷いたが、おれはなんだか引っかかる。ユースタス屋の部屋に長い金髪が落ちていたから浮気を疑われた。おれにさえ推測できることなのに、キラー屋が思い付かないことなどあるだろうか。なぜ、今まで黙っていた?なぜ、おれの提案を拒もうとした?まさか、と思ったところで、分厚い前髪の向こう、青い瞳と目が合う。余計な詮索はするなと言われたようで、おれは口を噤んだ。――そもそも、なぜこんなお節介を働いたのか自分でもわからなかった。あまりにユースタス屋が哀れだったので口を挟んだだけで、余計なことに巻き込まれるのはごめんだった。おれはキラー屋から目を逸らして再びテキストを見る。
そんな目をするならさっさと考えていることをユースタス屋に吐き出せばいいものを。おれはため息をついた。
――もっとも、この二週間後には、ユースタス屋から「キラーを彼女に紹介したら『キラーくんがいれば私必要ないじゃん』と言われて別れた」という愚痴を聞かされる羽目になることに、おれはまだ気付いていない。

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