短文置き場

またTB後ルゾロ書いてる…

2023/11/19 15:24
海賊
あれはチョッパーが仲間になる前、ナミが熱を出したときだった。ビビを含めた他の船員たちは交代でナミの様子を見ていて、そのときはルフィとゾロがその役目を務めていた。額に汗を浮かせ、頬を紅潮させ、苦しげな息を吐くナミを見つめながら、ルフィは「ゾロはなんか病気になったことあるか」と問うた。ルフィは覚えている限りこのように病気になったことはないし、それはウソップやサンジも同じだと言っていた。あのときゾロは見張りをしていて、その場にはいなかったのだ。
ゾロは椅子に座っていたルフィをちらと見て、それから「そんな軟弱なからだしてねェよ」と言った。ビビにはまるでルフィたちが異常者であるかのような反応をされたので、ルフィはゾロの答えが嬉しかった。ゾロもウソップもサンジもおれと同じだ。脚をぶらつかせる。ナミが苦しんでいるのはすぐにでも治してやりたいと思う。早く次の島が、医者が見つかればいい。でも、きっとナミは次の島まで持ちこたえられるはずだ。ルフィはそう信じている。



あのときのナミみたいだ、とルフィは思った。額に汗を浮かせ、頬を紅潮させ、苦しげな息を吐いている。違うのはゾロがそれを誰にも見せたくないみたいに、人が滅多にこないソルジャードックシステムの格納庫にいることだった。
ひとつ前の島(厳密には巨大な船だったらしい)で数日のあいだ気を失うほどの大怪我をしたゾロが、本人はそう見せないようにしてはいても、今でも本調子でないことには気が付いていた。時折呼吸が細くなり、サンジが作った最高の料理も無理して頬張っているように見えた。だから指摘もした。気のせいだ、と言われるばかりだった。
甲板で新聞を読んでいたロビンが妖刀のコラムを見つけ、「ゾロも読むかしら」と呟いたのを奪い取るようにしてゾロを探しに来たのがついさっきだ。ゾロは硬い床に腹を守るように丸まって倒れており、目は固く閉じている。
「チョッパー呼ぶぞ」
ルフィは新聞を片手に立ったままゾロにそう呼びかけた。目をつぶっていても、どうせゾロはルフィが来たことくらいは気が付いているだろう。
「いらねェ」
案の定ゾロは低くそう呟いて目を開けた。それから、億劫そうに左腕を動かして、ルフィの右足首を掴んだ。掴んだと言うには力が足りていないが、ゾロの手のひらがじわりと熱くて、ルフィは足を上げて払うようなことはしなかった。
「チョッパーの部屋、から、解熱剤取ってこい」
唸るように言う。船長に対して船員の部屋からものを取れとは随分な命令であった。なので、ルフィは頷かなかった。
「熱あんのか」
ルフィはそう尋ねた。てっきり傷が痛んで苦しんでいるのかと思っていたのだ。
「そりゃ、」
ゾロはふー、と長く息を吐く。
「でけェ傷のあとは、熱がでる」
「そうなのか?」
「……、そうだろ」
だから解熱剤、とゾロは言うが、ルフィはやはり動かない。ここまでひどいのは初めてだが、ゾロが大怪我したのを見るのは初めてではない。ゾロの口振りからして、怪我のあとに熱が出るのも初めてではないのだろう。
「なァ、熱でんのってどんな感じなんだ」
「は?」
「おれ熱出したことねェから知らねェんだ」
せめて薬を飲ませろよ、とゾロは思う。二重まぶたを重たく上下させ、ゾロは熱、どんな感じ、と自分の状態を言語化しようとした。ただでさえ苦手な作業を朦朧とした頭でやろうとするのは、それなりに苦行である。
「まえ、ゾロも病気になったことねェって言ってたよな」
「あ……?」
「ビビがいて、ナミが熱出したとき」
「あァ……」
こっちは考えているのだから、話しかけて来ないでほしい。ゾロは思うがルフィは止めなかった。
「嘘じゃねェか、熱出したことあったんだろ」
あの時点でゾロはミホークに斬らたのと自分で脚を斬ろうとしたのとで二回は大怪我をしている。それを黙っていたのか、と思うとつまらない気分になる。
「病気と、……怪我で熱を出すのは、別だ」
「似たようなモンだ」
ルフィはむっとしながら言った。ゾロは返事をしない。いつしかゾロの左手はルフィの足首から離れて床に落ちていた。それがひどく名残惜しくて、ルフィは座り込んだ。そして、ゾロの頭を右手で撫でてみる。短い緑の髪はじっとりと湿っている。
「る、」
「つらいんだな」
ゾロは肯定も否定もせず、のろのろとルフィを見上げた。それから「お前ほどじゃねェ」と掠れた声で言った。意味がわからず、ルフィは首を傾げる。ルフィはスリラーバークで一度気を失ってから次に目を覚ましたときにはすっかり元気になっていた。つらいことなどひとつもない。
ゾロは頭の上にある手に触れて、ルフィの薬指を握った。ゾロの目は暗い格納庫のなかでわかるほどに潤んでいて、じっとルフィを見上げたかと思うと、弱い力でルフィの手を引いた。ルフィが抵抗せずにいると、ゾロはルフィの指を自分の唇に触れさせた。
「……ゾロ」
「ん」
「ちゅーしてェならそう言え」
「……してェ」
思ってもみないほど素直な言葉に、ルフィは目を丸くする。
「熱あんのに?」
ルフィの問いに、ゾロは微かにうなずいた。前にサンジが言ってた、男は死にかけると子を残そうとするあまりにアソコが元気になるらしい、っていうのはこういうことなのかもしれない。ルフィは唐突に思い出す。そして、それは「ゾロが死にかけた」という言葉にそのまま紐付いた。思わずごくりと喉を鳴らして、ルフィはゾロの唇から手を離した。ゾロの指はそれを追いかけようとして、結局くたりと床に落ちた。
「……ルフィ」
「おれもしてェけどよ、」
ルフィは額まで赤いゾロの顔の熱さに、拳を握る。ゾロはルフィの言いたいことを悟ったか、ルフィを睨めつけた。もっとも、その視線に力はない。
「そんな、軟弱なからだ、してねェよ」
ゾロは言いながらハァ、と息を吐く。その呼気に含まれる熱が、傷によるものなのか色によるものなのか、ルフィには判別がつかなかった。もしかしたら両方だったのかもしれない。
「元気なときだって最後はゾロぐったりしちまうじゃねェか」
「あれは……てめェが、やり過ぎ、なんだ」
「そしたらおれは、今日もやり過ぎるよ」
「加減しろ、アホ」
「加減できるワケねェだろ、ゾロ」
ルフィはゾロの肩に触れた。シャツ越しでも、こんなところも、いつもより熱い。ゾロは今度はため息とわかる息を吐いて、目を閉じた。
「……解熱剤」
低く言うので、ルフィはしし、と笑いながら立ち上がった。
「チョッパーな」
「チョッパーはいい、解熱剤、」
ゾロの言葉は聞かぬまま、ルフィは格納庫を出ようとして、それから自分が左手で新聞紙を握っていることに気がついた。そもそもこれをゾロに見せようと思ってここに来たのだった。ルフィはゾロのもとに戻ると、新聞紙を大きく広げてゾロの体の上に乗せた。ブランケットというにはあまりにも薄いし、上半身すら間に合っていない。
「なんだこれ」
ゾロは怪訝そうに言った。ルフィは新聞紙が少しでもゾロのからだを覆うようにあれこれいじってみるが、あまり状況は変わらなかった。
「刀の記事が載ってるってロビンが言ってたからよ、熱下がったら読めよ!」
「……ん」
「今日のゾロは素直でヨロシイだなー」
ルフィはそう言って、ゾロのこめかみに唇を寄せて、今度こそチョッパーを探すべく立ち上がったのだった。



※このあとルフィもインペルダウンでめちゃくちゃ苦しみます…

コメント

コメントを受け付けていません。