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短文置き場

ルゾロとキスマーク

2023/11/19 15:18
海賊
「夢だよなぁ、一回つけてみてェ、いやつけられてェ……」
「そんなにいいモンでもねェだろ、ありゃただのアザだぞ」
うっとりした表情のサンジをたしなめるように、フランキーが肩をすくめる。ブルックなどは「私は最早つけるのもつけられるのも無理ですがねぇ……」と遠い目をしている。いや、ブルックに瞳はないのだが。
サニー号の男部屋で、ウソップとサンジ、フランキーにブルックは、テーブルの周りでカードをやりながら、適当な話題で会話を繰り広げている。ルフィはなんとなく気分にならなくて、ボングに入って彼らを見下ろしていた。
「まァ、せいぜい相手を痛がらせないように自分の腕でも吸って練習するこった」
「とっくにしてるわ」
「してンのかよ……」
「おいサンジ、変態に引かれてるぞ」
「うるせェ! おれだってなァ……!」
健全なのだか不健全なのだか、盛り上がるウソップとサンジとフランキーをルフィはボングのなかから眺める。チョッパーはすでに寝てしまっているし、見張り番のゾロは不在だ。
サンジが声高にそのロマンについて語っている。死んで骨だけであるブルックは生前ならまだしも今となっては話に入り込めないで、ルフィを見やった。
「ルフィさんは……、肺活量もありますし、キスマーク、つけるの得意そうですよね」
「キスマーク?」
ルフィは丸い目をぱちぱちと瞬かせた。サンジたちが盛り上がっている話題について、言われてようやく理解をした。はじめて聞く単語ではない。シャンクスがベックマンに「お前また付いてるぞ」とか言いながら大声で笑っていた記憶が確かにあった。だが。
「そんなのやったことねェよ」
「当たり前だろうが!!」
なぜかサンジが大声を出した。寝ぼけた声でチョッパーが「うるせェぞ〜……」と言いながらまた眠りに落ちる。キスマーク。サンジはいいものだと言い、フランキーは首を横に振っている。実際のところはどうなのか、試してみようとルフィは思った。


「……で?」
不遜な態度で、ゾロはルフィに次を促した。そろそろ空が白み始め、部屋に寝に戻ろうか、と思ったところで展望室にルフィがやってきて飛びついてきたものだから、眠気が強い。
大きく盛り上がったふたつの胸筋のあいだには、小さな赤い鬱血がある。ルフィがねだってゾロの胸に顔を埋めて唇をつけ、吸った結果作られた、いわゆるキスマークである。フランキーは練習が必要だと言っていたが、確かにここまでするのにそれなりに苦労した。
それでもゾロはおとなしく横になってルフィにされるがままになってくれていたが。
「んー、やっぱよくわかんねェ。サンジはいろいろ言ってたけどよ。フランキーの言う通り、ただのアザっちゃアザだよな」
「まァ、そんなモンだろうよ」
ゾロが起き上がり、ルフィと向い合せになる。口を合わせようとすると、至近距離のルフィが「あ!」と声を上げた。
「サンジは、つけたいしつけられたいつってたぞ! ゾロもおれにつけろ、キスマーク!」
「あのエロコックの発言なんざ真に受けるんじゃねェ」
「あ、フランキーはつけるのにコツがいるつってたぞ、ゾロはつけらんねェのか?」
「ンなワケねェだろ」
負けず嫌いが反射的に答える。ルフィは嬉しくなって、「じゃあつけろ!」と両腕を広げた。我に返ったゾロは口を噤んで、ようやくしまった、と思いながら頭をかく。ため息をついて、ルフィを見た。人のことを言えたものではないが、ルフィも前を開けっ放しの服装だ。あからさまに見えるところにつけるのも、他の船員の手前、船長の威厳を傷付けかねないので、これまでキスマークを付けようと思ったことはない。しかし、今回ルフィはそれを付けろという。大概コイツに甘い、と内心嘆息しながらルフィの赤いシャツを捲ってからだを伏せると、その脇腹に唇を寄せた。風の強いところでシャツが翻ったりすれば見えるかもしれないが、ここなら気付かれることは少ないだろうという算段だった。
ゴムの肌をぺろりと舐めると、くすぐったいのかひくひく震える。しっかり唇を密着させて、ゾロはルフィの肌を強く吸った。
「おらよ」
わざわざ誇示はしないものの、過去にはひとり海をさすらいそれなりの経験を積んできている。これも以前寝た女がピロートークにコツを語ってきたので覚えたものだ。とはいえ、これまでわざわざキスマークを残したいと思うような相手もおらず、ルフィには付けるのを躊躇い、披露する機会もなかったが。
ルフィは自分のからだを覗き込んで、その赤い跡を見た。痛くもないが、肌を吸われたからといってさほど気持ちがいいわけでもない。
「どうだ?あのクソエロコックのアホな言い分が理解できたか?」
「んん、んー、……ゾロもフランキーに付け方教えてもらったのか?」
「ア?違ェよ、お前に会うより前に、」
言ってから、ゾロは片目を瞬かせた。ルフィの唇が不機嫌に両端を下げている。言う通りにしてやったのに、なにがそんなに不満なのか――、いや。
「……付け方は知ってたけど、わざわざ付けたのはてめェくらいのモンだよ」
「本当か?」
「ああ」
それでようやくルフィの口端が笑みの形に戻っていく。やっぱりこっちのほうが、と思ってから、ゾロは自分の思考の甘ったるさに拳を握った。
「あ、いまサンジの言ってることわかった」
「……一応聞いてやる」
まさかルフィがサンジのロマンティックへのあこがれを解するとは思っていなかったゾロは、先を促した。
「これ、ゾロがおれの言うこと聞いたって証拠だ」
「……なんだそりゃ」



結局ルフィとのやりとりのせいで寝る時間が遅くなったゾロは、朝食後にボングに入ることにした。ナミなどはため息をついていたが、いざというときに万全の状態で戦えるよう、からだのコンディションを整えるのも戦闘員の仕事ではないか……、もっとも、あのときルフィの我儘に付き合わなければいま眠る必要もないのだが。
すぐに睡魔はやってきて、ゾロは気分良くまどろみにからだを預けようとした、瞬間だった。
「ゾロ!」
嵐のように男部屋に入ってきたのは、ここで寝るそもそもの原因であるルフィである。流石にゾロは無視することにした。寝たふりをしていれば、飽きて立ち去るだろうと思ったのだ。ゾロの寝汚さは、ルフィもよくよく知っているはずである。
ところが、ルフィはゾロのボングを覗き込んで、肩を掴んで横向きになっていたゾロのからだを仰向けにさせた。
「ねェ!」
「うるせェ……」
「キスマーク!お前のも!消えてるじゃねェか!」
ゾロは億劫ながら目を開けた。こちらに馬乗りになったルフィは、ゾロの胸元を指さした。
「そりゃそうだろ、……あんなアザ、すぐに消えるに決まってる」
……常人ならばもう少し残るであろうが、ルフィとゾロという人間離れした回復力をもつふたりであれば、そんなものはすぐに治癒してしまう。だからゾロは胸の中央にキスされようが、ルフィを咎めなかったのだが。
「じゃあもう一回つけさせろ!」
「なんでだよ、寝かせろ……!」
ルフィがボングを揺らすので、ゾロは眠たいのにからだを持ち上げて、彼を押し返した。結局二人は昼食の仕込みまえの休憩にやってきたサンジに蹴られるまで、ガタガタと喧嘩をし続ける羽目になったのだった。

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