短文置き場

後天的ゾ女体化

2020/08/20 23:20
海賊


爆発音と咳き込む声がいくつか。それから、ウソップの大声が船内に響く。この船の喧騒はそう珍しくはないけれど、いつもにも増して焦ったようなウソップの声に興味を誘われたロビンは、読んでいた古文書を片手に声のしたほうを覗き込む。ウソップ工場のあたりが紫色の煙に覆われていた。火薬かなにかを暴発させてしまったのだろう。ウソップは慎重な性格なのでそうないことだが、かといってあり得ないわけではない。ほんの少しの間に随分と煙が晴れてくる。向こうには、ウソップの他にもうひとりいるようだった。まあ、昼寝中のゾロでしょうね、とロビンは近づこうとして、
「あら……?」
その姿に首を傾げた。
そこにいたのは緑の髪をベリーショートにした、少女だったからである。


さすがはグランドライン、こんなこともあるんだな!
明るい声でそういったのは船長たるルフィで、他の面々はチョッパーに診察されているゾロを取り囲んで銘々好き勝手な反応をしている。ナミはゾロにどの服を着せるべきかわくわくと首を傾げ、責任を感じているらしいウソップは半泣きだ。もっとも複雑な顔をしているのはサンジで、恐らくは彼――彼女にどう接するか、死ぬほど悩んでいる。
「うーん。からだに異常はないけど、いや、異常しかないとも言えるけど、とりあえず健康体だ! まあ女に……なってるけど……」
「ゾロ……その……悪かった、おれ絶対にお前をもとに戻す方法を探すからな!」
ウソップがゾロに泣きつく。ゾロはウソップを見上げ、微笑んだ。
「構いやしねェとは言わねェが、お前のせいだけってわけじゃねェだろ」
「ゾロ〜!」
「それより今のからだの具合が知りてェ。オイチョッパー、もう行ってもいいか」
ゾロが立ち上がると、腰の三本の刀が擦れて音がなる。今やその腰は簡単に折れそうな細さであり、刀はいっそ不格好に見えた。
「あんまり無理すんじゃねェぞ!」
チョッパーは言っても無駄であることは承知で声をかける。ゾロはひらりと手を振った。ナミが慌ててその背中を追いかける。
「待ちなさいよ、服貸してあげるから」
「ア? これでいいだろ」
「よくないわよ」
言い合いをするふたりを見ながら、いよいよサンジが頭を抱える。
「おれはこれからアイツにレディ限定特製スイーツを出さねェといけねェのか!?」
悲痛な叫びに、ゾロが振り向く。
「いらねェよ、眉毛」
「眉毛……」
いつもの揶揄だが、いまのゾロの外観は女なので、サンジはとっさに喧嘩を買うことも出来なかった。ゾロは刀を手にして、ニヤリと笑う。
「ちょうどいい、あいつに女のからだでも世界一の剣豪になれるって証明できるからな」
「なにがだよ全然ちょうどよくねェよ!」
ウソップが叫ぶが、ゾロは気にも留めずに甲板へと出ていってしまう。サンジは大きくため息をつくことしか出来なかった。





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