短文置き場
ルゾロいちゃいちゃ
2023/11/19 15:12海賊
※先日のアニメでカイドウさんがゾロのこと「寂しがり屋」呼ばわりしたのと、人生で初めてUSJに行ってプレショで生身の人間がルフィを演じているのを見て思ったことをかきましたがプレショのネタバレはないです※
まったくゾロときたらあいも変わらずすぐにどこかに行ってしまうので、宿にチェックインするのにも苦労する。だけどおれはゾロの船長だから、とルフィは嫌がる彼の腕をつかんで引っ張って、ここまでやってきた。そもそも、次の島で同じ部屋に泊まろうと言ったら頷いたのはゾロのくせに、なにを勝手にウロウロしているのか。
そういうわけでルフィはその汚い字で、台帳に偽名(ナミに支持されたものだ)を書き込むあいだも、ゾロの腕だけは離さなかった。巨大な酒入りの瓢箪を抱えたゾロは、いい加減に諦めたのか大人しくしている。
「申し訳ございません」
宿の人間は、ルームキーを渡しながらそう言った。
「現在身長五メートル代の方向けの部屋しか空いていないのですが」
偉大なる航路、とくに新世界に入ってからは、しばしばあることだった。強者の集うこの海では、故郷と違い体格の良い人間が格段に多い。そういうわけで、航路を進めば進むほどに、宿は大柄な身長の客に合わせた部屋が増えていく傾向にあった。
「おう! いいぞ!」
ルフィは元気いっぱいにうなずいた。大は小を兼ねると言うが、部屋が広いことに不足はない。サニー号はフランキーのおかげで船としては快適な生活を可能としているが、大きなベッドで手足を広げて寝るのが嫌いなはずもなかった。
「ありがとうございます。お部屋は302号室でございます」
そう言われて早速出口の方に向かおうとするゾロの腕を握る手に、力を入れて引っ張る。302号室ってことは、三階だろ、だったら行くのは階段だろ、ということくらいは、ルフィにだってわかるのだ。
部屋に入ると、ルフィはようやくゾロの腕を離し、サンダルを脱ぎ捨てすぐにその巨大なベッドにダイブした。清潔な白いシーツに埋もれて、それからゴロゴロ転がってみせる。船のボングではできない動きだ。
「ゾロも早く来いよ〜!」
呼ばれたゾロといえば、腰にさしていた二振りの刀をいやに丁寧に下ろして、ドアの横に立て掛けたところだった。三刀をさしているとあっという間に身元が割れるので、戦闘が見込まれない上陸のときはナミに和道一文字を奪われてしまう。鬼徹や閻魔ら、妖刀には触れたくないらしい。それでゾロは少々機嫌が悪かった。瓢箪の栓を抜き、酒をあおる。ここまでルフィに手を引かれてやってきたせいで、どうにも気恥ずかしさがあった。大きく息を吐き、瓢箪に栓をしたところでルフィの腕が伸びてきて、肩を掴まれる。
「やめッ、」
出会った頃からしばしばこうして引き寄せられているが、慣れはしないので思わず声を上げる。が、ルフィがそんなことに意を介すはずもなく、次の瞬間にはその場に瓢箪を取り落とし、ゾロはそのままぎゅんとルフィのからだに突っ込まされていた。
「テメ、ルフィ!」
「ししし! ゾロだ〜!」
今更何を、と言おうと思ったが、口をつぐんだ。自分も心中でルフィだ、と実感していることに気付いたからだ。ゾロはチ、と控えめな舌打ちすると、大人しくルフィの腕の中に収まっていることにした。顔を見合わせると、思わず笑いが漏れる。
「こんな広いところでわざわざくっつくこたァねェだろ」
「なんでだよ、」
ルフィはゾロが文句を言いつつそんなに悪く思っていないことは察していたので、離れようとはしなかった。現にゾロの唇はへの字を書いているが、ルフィを押し退けようとはしない。嬉しくなって、両手でゾロの頬を挟むと、そのままゾロの左目に走る傷跡を舐めた。それからがぶがぶと鼻やら唇やらを甘噛みする。ルフィはキスなんかより、こういう触れ合いかたが好きだった。そのうちゾロが反撃してくるところも含めて。
お互いを唾液だらけにしながら、ベッドの上を転がるが、身長五メートルの人間が眠れる大きさのベッドは、ルフィとゾロの体重などまるでものともしない。
「この上なら、おれたちが戦っても平気かもな」
いつの間にかルフィに乗り上げる体制になったゾロは、戯れにそう言った。ベッドの大きさもさることながら、天井も随分高いのである。
「お、久しぶりにやるか?」
言いながら下から腕を伸ばし、ルフィはゾロの太い首に手を回した。アホ、とゾロが吐き捨てる。ルフィは少しだけ上体を起こしてゾロに頬ずりした。ルフィだって、さすがにこんなところで本気で戦おうだなんて思っていない。宿を破壊して請求書など叩きつけられようものなら、ナミに一ヶ月は禁肉・禁酒を言い渡されるに違いない。
ゾロは片目でじっとルフィを見下ろす。そして不意にルフィの上にからだを伏せ、その胸の中心に口付けた。
ルフィの胸から腹にかけての肌は、大きくバツを描くように赤く変色している。海軍に囚われた兄を助けに向かった先で受けた、火傷の跡だった。あのとき、なにもかも非力であったゾロは、同じ戦いに赴くことすら出来なかった。あのときだって、この男のためであれば、野望を捨て命をくれてやることすら惜しくないと、本気でそう思っていたというのに!
もう一度上体を上げて、ゾロはルフィを見た。ここに口付けようと、触れようと、舐めようと、この印は一生――いや、例えルフィが死んだとて、消えないのだ。だがそれは、その形が示す通りの、ゾロへの罰だ。戒めだ。
「ゾロぉ、くすぐってーぞ」
笑いを含んだ顔に我に返ると、ゾロはルフィの傷に触れていた。自分でも覚えがあるが、傷跡は肌が過敏になる。
「ゾロはいっつもそこ触るよな」
「触ってねェよ」
「触ってるよ」
そう言いつつも、別にいいのに、とルフィは思っている。口に出して追求したことはないが、ゾロが顔には出さずとも悔恨を抱えていることくらい、とうに感じ取っている。
「まァ、いいぞ好きにして」
ゾロは、ゾロだけは、絶対に船を降りないと、強く確信している。その自信がルフィを鷹揚にした。無防備に手足を大きく広げてみせる。許可を出されたゾロは、しかし逆に気恥ずかしくなり、「誰がするか」と吐き出した。
「じゃあおれがゾロのこと好きにすっぞ」
「……勝手に、しろ」
言われて、ルフィはゾロの肩を掴み、そのまま広大なシーツの海に沈めてしまう。風呂を嫌うふたりの濃い体臭が混ざり合うのをしきりに嗅いで、声を立てて笑っていた。