短文置き場
書き途中ドラロナ(の前段階のモブロナ)
2022/07/20 10:3594
「はじめまして、わたくし、吸血鬼おっぱい大好きと申します」
「そんな身も蓋もない名前あります?」
目の前で深々と頭を下げた初対面の吸血鬼に、俺は初手から突っ込んでしまった。吸血鬼退治人の事務所がトンチキ吸血鬼相談所になってしまって久しいが、それにしたってこんな火の玉ストレートな名前があってたまるか。
目の前の吸血鬼はきちんと三揃えを着込んだ紳士然とした格好をしている。吸血鬼の特徴たる尖った耳や発達した犬歯がなければ、そしてあんな名前がなければ、大企業のお偉いさんに見えただろう。
「確かに身も蓋もありませんが、私は自分の『好き』に嘘をつきたくないのです」
「…………はあ」
吸血鬼のこの妙な嗜好とそれに対する謎の誇りと人に押し付けようとする姿勢はなんなんだろうな。突っ込んでも徒労になることを理解して、今度こそちゃんと言い留まり、俺はおとなしく頷いた。それから一度深呼吸をする。
「それで――、相談と言うのは?」
「実は先日、理想のおっぱいを見つけたのです」
「理想の……」
俺の脳裏には、何人かのグラドルやセクシー女優のおっぱいが過っていった。この吸血鬼もそういうものを見てるんだろうか、見てるんだろうな。
「ロナルドさんはおっぱいはお好きですか?」
「へ!? あ、いや、」
否定しきれなかった俺に、吸血鬼はにんまりと笑う。
「お好きなんですね、それでそんなに……」
「え?」
「いえ、なんでもありません。それではロナルドさんの理想のおっぱいは?」
「だからそういうのじゃないですって、違います」
「またまた」
吸血鬼はにやりと笑った。そもそも、なんで俺の好みの話になってるんだ、こいつが相談に来たんだろう。できる限り苛立ちを抑え、無理やり笑ってみせる。
「そんなことより、そちらのお話を進めてくださいよ、理想のおっぱいを見つけて、それから?」
不服げな顔をした吸血鬼だったが、ひとつ息を吐いた。
「触りたいんです」
「え?」
「理想のおっぱいですから、触りたいのです」
「それは……同意を得なければ犯罪ですね」
「ええ、つまり同意を得れば犯罪ではないのです」
なんだ、こいつの相談は、理想のおっぱいとやらに同意の上で触らせろとでも言うのか。俺だってろくに触ったことないのに? それは無茶振りがすぎるというものだ。俺と親しい女性――例えばギルドの女子メンバーあたりがこいつの言う理想のおっぱいの持ち主で、触るための同意を取ってほしい、とか? そんなの無理だ、倫理的にもキツいうえにやるとなればトンファーで滅多打ちくらいは覚悟しなくちゃいけない。冗談じゃねえ。
「無理です」
「なにがですか」
「あなたが望んでいることは」
「私はまだなにも言ってませんよ、ロナルドさん」
吸血鬼おっぱい大好きは、まったくの正論を返してくる。俺は黙ることしかできなかった。
「ねえロナルドさん」
不意に名前を呼ばれる。相手の目をまっすぐに見つめた瞬間、ぞわ、とからだに鳥肌が立つ。やべ、まずい、逃げなきゃ、頭の中で警報が鳴り響く。なのに。
「こちらに来て頂けますか」
「は、……?」
男の言葉に逆らうことができなかった。俺は立ち上がって、隣に座ると、相変わらず奴の瞳を見つめてしまう。そうすることでより深い催眠に、かかってしまう、こと、わかっているはずなのに。
「我が名は吸血鬼雄っぱい大好き、理想の雄っぱいの持ち主は――あなたです」
「あ……」
もう抵抗ができなかった。突っ込みたいことは山ほどあるはずなのに、おれは、男をじっと見つめることしかできない。……こいつの、理想の雄っぱいとやらに、なれて、うれしい……♡
「ロナルドさん、あなたのその豊満な雄っぱい、揉ませて頂けますね?」
「あ……、……はい」
言われて胸を差し出すように突き出すと、待ちに待った手のひらが俺の胸にあてがわれた。はふ、と息を吐き出して、自ら擦り付けてしまう。
「そんなに触られて嬉しい?」
「はい♡ もっと、触ってほしい……♡ んッ……♡」
「ハァ……週ヴァンの貴方のグラビアを見るたびに、そのページで抜きまくってましたよ……♡ このえっちなインナー、わざと着けてるんですか?♡ 皆におっぱいを見せつけるつもりで?♡」
「ちが……♡ ひッ♡ んんッ♡」
ちがう、そうじゃない、そんなわけない、頭の中で抵抗してみるが、無意味だった。黒いインナー越しに乳首が擦れると、本当にそんな気がしてくる。おれ、は、こいつに、ちがう、世の中におれの雄っぱい見せつけて、えっちな妄想いっぱいしてほしいって、望んで……た?♡
「ほら、乳首すっごいですよ、わかります?♡ こんなに大きくてぷっくりして、触られてるの大喜びして♡」
「アッ♡ 弾くなっ♡ きもちいから、やめろっ♡」
「雄っぱい触られて嬉しいんですよね?♡ 嬉しい気持ち込めてピースしてくださいよ♡ ほら、ピース♡ ピース♡」
「はひ、♡ ピース♡ ピース……♡♡」
「ヌーーーーーーーッ!!!!!」
指を二本立てようとしたその時、視界にホットケーキみたいな色合いの丸い塊が、可愛い声を上げて突入してきた。それがジョンであることに気づいたのは、ジョンが俺の胸にしがみついてくれたからだった。
「ジョンもおれの雄っぱい♡ 触りてえの?♡ いいぜ♡」
「ヌヌ! ヌヌヌヌヌヌ! ヌヌ!」
ジョンが小さな手でばしばしと俺の胸元を叩くので、その度に気持ちよくなってしまう。ジョンは俺を見て「ヌヌヌ……」とため息をついたあと振り返り、吸血鬼雄っぱい大好きに振り向いた。
「ヌヌヌヌ! ヌヌヌ! ヌヌヌ!」
「おやおや、随分とお怒りのようだ。そんなに大事ならこんな豊満な胸はしまうように言えばよかろう」
「ヌヌヌヌ! ヌヌヌヌヌヌイ!」
「わかったわかった、今日はここまでにしておくよ。いずれ母乳が出るような催眠もかけてあげるからね、ロナルドくん♡」
「母乳……♡」