短文置き場
屋上組宴
2022/07/20 10:34海賊
「酒ってのはもっと勢いつけて飲むモンだろ」
仮面の穴にストローをさしこんで酒を飲むキラーを見て、ゾロは思わずそう言ってしまった。言われた側のキラーは顔をゾロの方に向けると、「すまん」と言いつつ結局そのままストローを離さない。
二年前にシャボンディ諸島に同時期に上陸していたということは知っているが、このワノ国まで関わったこともなかった相手だ。だが、同じ二番手ゆえか、刃物を使う戦闘スタイルゆえか、なにより一度仕合ったゆえか――会話はそれなりに気安かった。
「なァ、そのぐるぐる鎌つけてまた戦えよ」
「ぐるぐる鎌じゃねェ!パニッシャーっつうんだ!」
キラー本人ではなく、その向かいに座っているキッドから訂正が飛んだ。刀の名なら覚えられるが、鎌はちょっと専門外だ。ゾロは肩をすくめた。
「なんだ、お前ら戦ったことあンのか?」
身を乗り出してきたのはルフィである。肉を食いちぎりながら、ゾロとキラーの顔を交互に見る。ゾロは頷き、「おれが勝った」と笑ってみせた。キラーは言い訳は好まないたちらしく、反論しない。ので、キッドのほうが「あのときはキラーがSMILE食ってて本調子じゃなかった」などと言い張った。
「いやまァ、お前に負けたおかげでキッドに再会できたようなものだからな」
ところがキラーがゾロを認めるような発言をするので、キッドは不愉快そうに顔を歪める。キッドの横にいたローが酒をひとくち啜ると、「船長に比べて大人だな」と煽ってみせるので、キッドはますます腹を立てている。
「なー、キラ男」
「……それはおれのことか」
「それ、もう割れてンじゃねェか、なんでまだつけてんだ?」
ゾロの横から、ルフィがキラーの顔を覗き込む。キラーは片手でフルフェイスマスクをひとなでした。このメンバーでカイドウやシャーロット・リンリンと戦っていたときはまだ無事だったのに、ホーキンスに足蹴にされてひびが入ってしまった。それを後生大事にかぶったままである。
「ファ、まァ確かに外してもいいのかもしれねェが」
キラーはここでふとゾロの顔を見る。
「そうだ、ロロノアと戦ってわかったんだが――ファファ、笑いながら戦うと、口に血が入る」
だからこれはまだ必要だな、とキラーは笑った。その笑いが本当に笑いなのか、本当は不快がっているのか、さほどキラーと親しくないローはそれがどういう感情なのか判別がつかず、キラーの“相棒”――キッドのほうを見た。が、キッドはキッドであからさまに「ウゲ〜」という顔をしている。ただひとり頷いたのはゾロだった。
「あー、おれも三刀流で刀を口に咥えると、隙間からよく血が入ってくるな」
この場には五人しかいないのに、たびたび敵の血液を飲み込んでいる人間がふたりもいる。
「まあ、慣れればどうってことねェよ。お前もそのうち慣れるんじゃねェか」
「ファファ、豪気だな」
キラーはまた笑った。キッドはなんとか気を取り直すと、ひとつ疑問を口にした。
「ていうか、他人の血って飲んで感染症になったりしねェのか」
「口から入ったものは胃で消化されるからそう問題はねェ」
“死の外科医”がすんなりと回答する。ルフィは肉を咀嚼しながら「ていうかお前の血も飲んじまった」「おれもだ、ファファ!」というナンバー2同士の会話を聞いていた。マスクのやつ、採掘場じゃ泣きまくってたのに、元気になってよかったな。血の話はさておき、ルフィはそう思いながら頷いた。
「トラファルガー、血ってタンパク質で出来てたりするのか?」
「ア? まあそうだが……」
「おいキラー、筋肉育てたいからって血を飲むのは止めろよ……」
「まさか、そんなこと考えるわけねェだろ」
「どうだかな」
ローはついさっき「船長に比べて大人」と称した仮面の男が、やはりなんだかんだと「最悪の世代」であることを思い出していた。海賊というのは、それもここまで登りつめるのは、やはりどこかが破綻してなくてはいけない。いや、おれは別に破綻はしてねェが……。かつて目的のために海賊の心臓を百個海軍に送りつけた男は、黙って酒を啜ることにした。
仮面の穴にストローをさしこんで酒を飲むキラーを見て、ゾロは思わずそう言ってしまった。言われた側のキラーは顔をゾロの方に向けると、「すまん」と言いつつ結局そのままストローを離さない。
二年前にシャボンディ諸島に同時期に上陸していたということは知っているが、このワノ国まで関わったこともなかった相手だ。だが、同じ二番手ゆえか、刃物を使う戦闘スタイルゆえか、なにより一度仕合ったゆえか――会話はそれなりに気安かった。
「なァ、そのぐるぐる鎌つけてまた戦えよ」
「ぐるぐる鎌じゃねェ!パニッシャーっつうんだ!」
キラー本人ではなく、その向かいに座っているキッドから訂正が飛んだ。刀の名なら覚えられるが、鎌はちょっと専門外だ。ゾロは肩をすくめた。
「なんだ、お前ら戦ったことあンのか?」
身を乗り出してきたのはルフィである。肉を食いちぎりながら、ゾロとキラーの顔を交互に見る。ゾロは頷き、「おれが勝った」と笑ってみせた。キラーは言い訳は好まないたちらしく、反論しない。ので、キッドのほうが「あのときはキラーがSMILE食ってて本調子じゃなかった」などと言い張った。
「いやまァ、お前に負けたおかげでキッドに再会できたようなものだからな」
ところがキラーがゾロを認めるような発言をするので、キッドは不愉快そうに顔を歪める。キッドの横にいたローが酒をひとくち啜ると、「船長に比べて大人だな」と煽ってみせるので、キッドはますます腹を立てている。
「なー、キラ男」
「……それはおれのことか」
「それ、もう割れてンじゃねェか、なんでまだつけてんだ?」
ゾロの横から、ルフィがキラーの顔を覗き込む。キラーは片手でフルフェイスマスクをひとなでした。このメンバーでカイドウやシャーロット・リンリンと戦っていたときはまだ無事だったのに、ホーキンスに足蹴にされてひびが入ってしまった。それを後生大事にかぶったままである。
「ファ、まァ確かに外してもいいのかもしれねェが」
キラーはここでふとゾロの顔を見る。
「そうだ、ロロノアと戦ってわかったんだが――ファファ、笑いながら戦うと、口に血が入る」
だからこれはまだ必要だな、とキラーは笑った。その笑いが本当に笑いなのか、本当は不快がっているのか、さほどキラーと親しくないローはそれがどういう感情なのか判別がつかず、キラーの“相棒”――キッドのほうを見た。が、キッドはキッドであからさまに「ウゲ〜」という顔をしている。ただひとり頷いたのはゾロだった。
「あー、おれも三刀流で刀を口に咥えると、隙間からよく血が入ってくるな」
この場には五人しかいないのに、たびたび敵の血液を飲み込んでいる人間がふたりもいる。
「まあ、慣れればどうってことねェよ。お前もそのうち慣れるんじゃねェか」
「ファファ、豪気だな」
キラーはまた笑った。キッドはなんとか気を取り直すと、ひとつ疑問を口にした。
「ていうか、他人の血って飲んで感染症になったりしねェのか」
「口から入ったものは胃で消化されるからそう問題はねェ」
“死の外科医”がすんなりと回答する。ルフィは肉を咀嚼しながら「ていうかお前の血も飲んじまった」「おれもだ、ファファ!」というナンバー2同士の会話を聞いていた。マスクのやつ、採掘場じゃ泣きまくってたのに、元気になってよかったな。血の話はさておき、ルフィはそう思いながら頷いた。
「トラファルガー、血ってタンパク質で出来てたりするのか?」
「ア? まあそうだが……」
「おいキラー、筋肉育てたいからって血を飲むのは止めろよ……」
「まさか、そんなこと考えるわけねェだろ」
「どうだかな」
ローはついさっき「船長に比べて大人」と称した仮面の男が、やはりなんだかんだと「最悪の世代」であることを思い出していた。海賊というのは、それもここまで登りつめるのは、やはりどこかが破綻してなくてはいけない。いや、おれは別に破綻はしてねェが……。かつて目的のために海賊の心臓を百個海軍に送りつけた男は、黙って酒を啜ることにした。