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短文置き場

英雄の遺産とフェリシル

2020/08/18 00:00
FE3H


「あーあ、久しぶりに破裂の槍使ったから疲れちまった」
ぐたりと横になったシルヴァンが言う。フェリクスは部屋の壁に立て掛けられたそれを見た。槍と言うには刃が多く、赤く光る紋章石は不気味だった。幼馴染四人、それぞれの家には英雄の遺産を持っている。フェリクスを覗いた三人は、それぞれが槍を持っていた。フェリクスはどれも見せられたことがあったけれど、すべてが大仰で奇妙なかたちをした、気味の悪い槍だった。
「鍛え方が足りないのだろう」
「ぜったい違うね、あのカトリーヌ殿ですら雷霆を使うと疲れるって言ってたし」
フェリクスは口をつぐんだ。シルヴァンはともかく、カトリーヌが言うのならその、たとえ紋章の適合者であろうと「英雄の遺産を使うと疲れる」という主張は正しいのだろう。
「お前も使えばいいのに」
「使わん」
フェリクスはシルヴァンが寝転がる寝台に腰掛けた。ベレトにも何度かそう持ちかけられている。だが、フェリクスは首を横に振り続けていた。自分は剣士だ。馬にも飛竜にも乗らず、身一つで戦場を駆けると決めている。そのために鎧すら忌避し続けているというのに――あの巨大な盾など持ったら最後、自分の機動力が落ちることは必定だ。
「殿下やイングリットも言ってたんだけど、」
シルヴァンの声は妙に淡々としていた。フェリクスは黙って聞いている。
「なんていうか、人のいのちを奪ったって実感が他の武器より手に残る感じ」
なんとはなしにシルヴァンの顔を見ると、半分目が閉じられているような状態で、フェリクスはいっそ彼を眠らせたほうがいいのではないかと思った。少し身を乗り出して、目元を覆ってやろうと手を伸ばす。
「お前の盾なら」
シルヴァンがやんわりと微笑む。
「人のいのちを守ったって、思えるのかな……」
フェリクスは答えず、シルヴァンの目を覆った。いつも、どうして自分の家の遺産だけが盾なのだろうと思っていた。いくら「ファーガスの盾」などと呼ばれようと、身を守るのは性に合わなかった。ベレトやカトリーヌの剣が羨ましかった。百歩譲って、彼らのような槍でもよかったのに。
剣士なのだ、と自負している。人のいのちを斬って進む。シルヴァンも人のいのちを槍で貫く日々だが、彼には自分にはない信念があることを知っている。移民たちから、その戦いから、領地を、ひいてはこの国を守ろうという意思。
お前が盾を持てばよかったのに、それならばこの、他人のことを庇っては傷つくばかな男のけがも、少しはマシになっただろうに。
フェリクスはシルヴァンの傷付いた腹を隠すように、そっと毛布を引き上げた。



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雷霆が一発変換できたのにいちばんびっくりした

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