短文置き場
ルゾロ(ゾロは非処女)
2022/07/20 10:30海賊
「おれ、ゾロとえっちしたいぞ!」
ルフィの宣言は晴天の下、高らかに行われた。たまたま甲板に出ていたナミとウソップはあんぐりと口を開けた。突っ込もうと思ったが、突っ込むべき言葉も見つからない。キッチンで料理中のサンジや、ラウンジで読書中のチョッパーやロビンには幸いだったのかもしれなかった。そして当のゾロといえば、「ア?」と声を上げて緩慢にルフィのほうを見ただけである。半分昼寝に入ろうとしていたところだったのである。
ルフィはゴムの腕を伸ばし、ゾロのほうに飛んだ。壁にからだを預けているゾロの目の前に仁王立ちになり、エヘン、とばかりに胸を張る。
「ゾロとえっちしてえ! するぞ!」
「いやなんでだよ!」
しばらく固まっていたようやくウソップが声を上げた。なにしろルフィもゾロも同じ男である。そりゃあ世に同性同士で恋愛する人間がいることは知識として知ってはいても周囲にそういう人間はいなかったし、そもそもこんな、周囲に他の人間がいる場所で大声で宣言するようなことではないだろう。
「しねェ」
そしてゾロの返答もウソップからしてみれば、さもありなん、だった。あれで動じた様子がないところはさすが東の海の魔獣と言ったところだが、ひとまずウソップは胸を撫で下ろした。さすがにここで仲間のセッ……を見せ付けられたくはない。周りは海で逃げ場もないし。
「なんでだよ! ゾロこの前言ってただろ! 昔は誘われればやってたってよ!」
「最悪」
ナミが隣で顔をしかめるのを、ウソップは見た。そう、確かにこの前、ナミとロビン、それにチョッパーがそうそうに部屋に戻ってしまったので、なんとはなしに男連中でちょっとした猥談をした。とはいえ牧歌的な東の海育ちの十代同士、経験が多い者は少ない。唯一の例外がゾロだった。彼はルフィと出会う前、――海賊狩り時代は小悪党を倒して回っていたこともあり、礼と称して身体を明け渡されることもあったという。別段欲しくもなかったが、相手が意を決してこちらに捧げようとするのを無碍にするのは気が引けた。結果ゾロは海をさすらう間性欲と処理には困らなかった、という話をぽつぽつと語ったのである(その話を聞いたサンジは地団駄を踏んで悔しがっていた)。
「それとこれとは話が違うだろ」
ゾロは心底面倒そうな声だった。今すぐにでも寝てしまいたいという態度が如実にでている。ルフィは不満げに唸り声を上げた。
「違わねェ!」
「こういうところで話すようなことでもねェ。この話は終いだ」
大あくびをして寝に入ろうとするゾロを引き止めるように、ルフィがゾロのシャツを掴む。
「じゃあ別のとこで話す! 来いゾロ!」
「後でな」
ゾロはやすやすとルフィの手を振り払ってごろんと横になると、寝返りを打った。この船で、ゾロの睡眠は恐ろしく深い。彼は夜行性の獣のようによく眠った。それをよく知るルフィは思い切り唇を尖らせると、くるりと踵を返した。
ゾロは目を閉じた奥で、眠りにつく前に、さきほど我らが船長の申し出について考えてみることにした。
実際、これまでは誘われるまま乗ってきた。女も男も、抱かれたいとも抱きたいとも、言われるがままだった。ゾロは同年代の男に比べてさほど性欲が強くない――どころか薄いほうではあったが、だからといって処理がまるで必要ないわけではない。できるものならしてしまったほうがいい。それに、誰かと寝るときは大概相手が食事と寝床も提供してくれるので、なんの寄る辺もなくミホークを追いかけ続ける自分の生活に都合が良かったのだ。
ルフィがどういうつもりであんなことを言い出したのか、ゾロには想像がつかない。コミュニティのなかでの色恋沙汰は、あまりいい方向に働かないであろうことくらい、ゾロにも辛うじて想像がつく。だが、自分とルフィが寝ることで、おれたちの関係はなにか変わるだろうか。あの日――海軍の基地で脅されて仲間にされたときから、ルフィの夢はゾロの夢の一部になってしまった。そうせざるを得ない状況であったが、約束をしたのだ。約束をしたからには、なにもかもをもなげうって、果たさなければならない。ルフィはそういう相手だ。
ルフィが自分に抱かれたいのか、あるいは自分を抱きたいのかも知らないが、命を捧げようとする相手なのだから、からだを明け渡すことなど些末な問題のようにも思えた。だからといって、晴天の下、仲間の前でそういう話をする奔放さには辟易するが。
先ごろの猥談のとき、ルフィはそういう経験はまるでないと笑っていた。事実だろう。ルフィは実際よく人を惹き付ける少年だが、その素質をもとに相手とからだを繋げるような男でもない。
本当にやるなら、おれがリードしてやらねェと、とゾロは夢に入り込む前に考えた。口許が緩む。それはひどく楽しい想像のように思えたからだった。
(中略)
ゾロはベッドに横になった目の前の男を前に、マウントポジションを取っておきながら、動けなかった。
船長とはいえルフィは歳下だし、おれのほうが経験がある。抱かれるにせよ抱くにせよ、おれが主導権を持たなきゃいけねェ。
それはルフィにあけすけに「えっちしたい」と言われてから、ずっと考えていたことだった。そして、ほんの数分前にだってそう考えていた。
ゾロはメリー号でのそう長くない航海のあいだに、すっかり忘れていた。確かにゾロには両手両足で足りない程度には経験がある。だがその殆どすべてが、相手の年齢・性別・ポジションに関わらず、されるがままだったのだ。ゾロは寝転がっていれば快感を得ることができた。たまにそうでない体制だったとして、相手の指示のまま動いていた。おまけにろくに興味もなかったので、自分のからだがどんなことをされてきたのか、してきたのか、ろくろく覚えていない。ルフィをリードすることなど、本来できるはずがなかった。そんなことを思いつきもしなかったのだから、とんだ間抜けだった。
「おいゾロ?」
宿に入るときには、おれに任せておけ、と笑っていたゾロが、いざ服を脱いだところで動かない。ルフィは訝しげに彼を見上げた。
「やんねェならおれがやるぞ」
「いや、……待て」
ゾロが妙に歯切れが悪いのもらしくない。ルフィは首を傾げた。左の肩肘をついで上半身を持ち上げると、ゾロの顔を覗き込む。
「待たねェ」
「る、ッうぐっ」
ルフィは右手をゾロの頬にくっつけると、そのまま自分の顔をゾロに近付ける。異論を許さず唇と唇を合わせた。ルフィはサンジがロッカーに詰め込んでいる女の裸だらけの雑誌に興味はなかったけれど、こういうときにキスをするということくらいは知っていた。
「テメェ、やめろつったろ」
「ゾロが『任せろ』って言ったのに動かねェからだろ」
それともこの前の話は全部嘘だったのか? 言ってルフィが唇を吊り上げる。普段はアホのくせに闘いの中では妙に煽るのが得意な男だった。こいつ、セックスも戦闘と同じかよ。ゾロは思わずく、と笑ってしまう。
「お前みたいに親しい相手とすんのは初めてだな」
「よくわかんねーけど、それすっげーいいな」
ルフィが黒い瞳を煌めかせるので、ゾロは今度こそ自分から唇を合わせた。――そうだ、おれはこういうキス、だって、やったことがある。見せつけるようにルフィの唇を舐めてやった。
ルフィの宣言は晴天の下、高らかに行われた。たまたま甲板に出ていたナミとウソップはあんぐりと口を開けた。突っ込もうと思ったが、突っ込むべき言葉も見つからない。キッチンで料理中のサンジや、ラウンジで読書中のチョッパーやロビンには幸いだったのかもしれなかった。そして当のゾロといえば、「ア?」と声を上げて緩慢にルフィのほうを見ただけである。半分昼寝に入ろうとしていたところだったのである。
ルフィはゴムの腕を伸ばし、ゾロのほうに飛んだ。壁にからだを預けているゾロの目の前に仁王立ちになり、エヘン、とばかりに胸を張る。
「ゾロとえっちしてえ! するぞ!」
「いやなんでだよ!」
しばらく固まっていたようやくウソップが声を上げた。なにしろルフィもゾロも同じ男である。そりゃあ世に同性同士で恋愛する人間がいることは知識として知ってはいても周囲にそういう人間はいなかったし、そもそもこんな、周囲に他の人間がいる場所で大声で宣言するようなことではないだろう。
「しねェ」
そしてゾロの返答もウソップからしてみれば、さもありなん、だった。あれで動じた様子がないところはさすが東の海の魔獣と言ったところだが、ひとまずウソップは胸を撫で下ろした。さすがにここで仲間のセッ……を見せ付けられたくはない。周りは海で逃げ場もないし。
「なんでだよ! ゾロこの前言ってただろ! 昔は誘われればやってたってよ!」
「最悪」
ナミが隣で顔をしかめるのを、ウソップは見た。そう、確かにこの前、ナミとロビン、それにチョッパーがそうそうに部屋に戻ってしまったので、なんとはなしに男連中でちょっとした猥談をした。とはいえ牧歌的な東の海育ちの十代同士、経験が多い者は少ない。唯一の例外がゾロだった。彼はルフィと出会う前、――海賊狩り時代は小悪党を倒して回っていたこともあり、礼と称して身体を明け渡されることもあったという。別段欲しくもなかったが、相手が意を決してこちらに捧げようとするのを無碍にするのは気が引けた。結果ゾロは海をさすらう間性欲と処理には困らなかった、という話をぽつぽつと語ったのである(その話を聞いたサンジは地団駄を踏んで悔しがっていた)。
「それとこれとは話が違うだろ」
ゾロは心底面倒そうな声だった。今すぐにでも寝てしまいたいという態度が如実にでている。ルフィは不満げに唸り声を上げた。
「違わねェ!」
「こういうところで話すようなことでもねェ。この話は終いだ」
大あくびをして寝に入ろうとするゾロを引き止めるように、ルフィがゾロのシャツを掴む。
「じゃあ別のとこで話す! 来いゾロ!」
「後でな」
ゾロはやすやすとルフィの手を振り払ってごろんと横になると、寝返りを打った。この船で、ゾロの睡眠は恐ろしく深い。彼は夜行性の獣のようによく眠った。それをよく知るルフィは思い切り唇を尖らせると、くるりと踵を返した。
ゾロは目を閉じた奥で、眠りにつく前に、さきほど我らが船長の申し出について考えてみることにした。
実際、これまでは誘われるまま乗ってきた。女も男も、抱かれたいとも抱きたいとも、言われるがままだった。ゾロは同年代の男に比べてさほど性欲が強くない――どころか薄いほうではあったが、だからといって処理がまるで必要ないわけではない。できるものならしてしまったほうがいい。それに、誰かと寝るときは大概相手が食事と寝床も提供してくれるので、なんの寄る辺もなくミホークを追いかけ続ける自分の生活に都合が良かったのだ。
ルフィがどういうつもりであんなことを言い出したのか、ゾロには想像がつかない。コミュニティのなかでの色恋沙汰は、あまりいい方向に働かないであろうことくらい、ゾロにも辛うじて想像がつく。だが、自分とルフィが寝ることで、おれたちの関係はなにか変わるだろうか。あの日――海軍の基地で脅されて仲間にされたときから、ルフィの夢はゾロの夢の一部になってしまった。そうせざるを得ない状況であったが、約束をしたのだ。約束をしたからには、なにもかもをもなげうって、果たさなければならない。ルフィはそういう相手だ。
ルフィが自分に抱かれたいのか、あるいは自分を抱きたいのかも知らないが、命を捧げようとする相手なのだから、からだを明け渡すことなど些末な問題のようにも思えた。だからといって、晴天の下、仲間の前でそういう話をする奔放さには辟易するが。
先ごろの猥談のとき、ルフィはそういう経験はまるでないと笑っていた。事実だろう。ルフィは実際よく人を惹き付ける少年だが、その素質をもとに相手とからだを繋げるような男でもない。
本当にやるなら、おれがリードしてやらねェと、とゾロは夢に入り込む前に考えた。口許が緩む。それはひどく楽しい想像のように思えたからだった。
(中略)
ゾロはベッドに横になった目の前の男を前に、マウントポジションを取っておきながら、動けなかった。
船長とはいえルフィは歳下だし、おれのほうが経験がある。抱かれるにせよ抱くにせよ、おれが主導権を持たなきゃいけねェ。
それはルフィにあけすけに「えっちしたい」と言われてから、ずっと考えていたことだった。そして、ほんの数分前にだってそう考えていた。
ゾロはメリー号でのそう長くない航海のあいだに、すっかり忘れていた。確かにゾロには両手両足で足りない程度には経験がある。だがその殆どすべてが、相手の年齢・性別・ポジションに関わらず、されるがままだったのだ。ゾロは寝転がっていれば快感を得ることができた。たまにそうでない体制だったとして、相手の指示のまま動いていた。おまけにろくに興味もなかったので、自分のからだがどんなことをされてきたのか、してきたのか、ろくろく覚えていない。ルフィをリードすることなど、本来できるはずがなかった。そんなことを思いつきもしなかったのだから、とんだ間抜けだった。
「おいゾロ?」
宿に入るときには、おれに任せておけ、と笑っていたゾロが、いざ服を脱いだところで動かない。ルフィは訝しげに彼を見上げた。
「やんねェならおれがやるぞ」
「いや、……待て」
ゾロが妙に歯切れが悪いのもらしくない。ルフィは首を傾げた。左の肩肘をついで上半身を持ち上げると、ゾロの顔を覗き込む。
「待たねェ」
「る、ッうぐっ」
ルフィは右手をゾロの頬にくっつけると、そのまま自分の顔をゾロに近付ける。異論を許さず唇と唇を合わせた。ルフィはサンジがロッカーに詰め込んでいる女の裸だらけの雑誌に興味はなかったけれど、こういうときにキスをするということくらいは知っていた。
「テメェ、やめろつったろ」
「ゾロが『任せろ』って言ったのに動かねェからだろ」
それともこの前の話は全部嘘だったのか? 言ってルフィが唇を吊り上げる。普段はアホのくせに闘いの中では妙に煽るのが得意な男だった。こいつ、セックスも戦闘と同じかよ。ゾロは思わずく、と笑ってしまう。
「お前みたいに親しい相手とすんのは初めてだな」
「よくわかんねーけど、それすっげーいいな」
ルフィが黒い瞳を煌めかせるので、ゾロは今度こそ自分から唇を合わせた。――そうだ、おれはこういうキス、だって、やったことがある。見せつけるようにルフィの唇を舐めてやった。