短文置き場
ホーキンス
2022/07/20 10:28海賊
※キラー対ホーキンス読んで書いたやつ
卑怯者、という誹りは幾度も受けてきた。そのようなことを言うのは、大概が海賊であった。一方で、海軍は海賊は卑怯なものだと教育でもされているのか、おれの能力をむしろ淡々と受け止めるものだ。
目の前の仮面の男が、それまで好戦的に掲げていた両手を下げる。おれは自分の変身の能力を解除しながら、それを眺めていた。戦意を無くしているのは明白だが、男――キラーはこちらをいい趣味だと皮肉りはすれど、卑怯だとは罵らなかった。思えばあの死の外科医――トラファルガー・ローの仲間を捕らえ脅したとき、彼もこちらを卑怯だとは決して言わなかった。キラーもトラファルガーも、若いなりに海賊としての矜持があるのだろう。だからこそ彼らはカイドウに抗い続けることができる。
同時期に偉大なる航路を半周し終えた者として世間では一括りにされていたが、当時は互いが互いに自分こそが強者であると確信していたものである。
それから二年以上が過ぎ、全員が新世界に入った。まったく、偉大なる航路の前半が「楽園」であったことは事実だ。ある者は自分たちの限界を悟り、ある者は生き抜くために挑み続けることを誓った。どこで前者と後者の道が分かたれたのか。おれはカイドウの誘いに頷き、キッドとキラーは首を横に振った。だが恐らく、分かたれたのはその瞬間ではない。もっと以前からだ。同盟を組んだとき。違う。シャボンディ諸島で顔を会わせたとき。違う。偉大なる航路で懸賞金が一億を超えたとき。違う。そもそも、偉大なる航路に入った時。これも違う。恐らくは――この世に生まれたときから、そう決まっていた。
竜の姿でキッドとキラー、そしてその部下たちを焼き払うカイドウの傍らで、おれは自らに失望し、同時に興奮していた。
幼い頃読んだ絵物語である『海の戦士ソラ』の主人公ソラは、敵であるジェルマ66にどれだけ痛めつけられようと、絶対に諦めずに立ち向かっていた。それから、ソラの相棒は巨大ロボとカモメだと設定されている。ソラはその両方を、自分の命以上に大事にしていた。
おれはカイドウに屈せず、互いを庇いあうように戦うキッドとキラーを見ながら、確かにソラのことを思い出していた。ことキラーは、その後キッドを救うためにSMILEまで食ったという。なんという諦めの悪さ、忠誠心。もっとも、残虐と名高い海賊たちを、ヒーローになぞらえるのもおかしな話だが。
さて、例えばソラが、ジェルマにカモメを人質に取られ、そのジェルマを倒すにはまずカモメを殺さねばならない状況になったら。ソラはどのように戦うのだろうか。所詮『海の戦士ソラ』は勧善懲悪を是とする子ども向けの絵物語に過ぎないから、ジェルマがヘマをしてその隙にカモメを助け出すとか、そんな展開になるのかもしれない。
だが、おれの能力はそんな隙など与えやしない。さあ、どうするんだ、ヒーロー。キラーは仮面とSMILEの副作用のせいで本人の感情が見えないことだけが惜しいが、彼の選択が幼い頃の『海の戦士ソラ』のようにおれを楽しませてくれることは間違いがなかった。さあ、続きは次号の“世経”だ! 乞うご期待!
卑怯者、という誹りは幾度も受けてきた。そのようなことを言うのは、大概が海賊であった。一方で、海軍は海賊は卑怯なものだと教育でもされているのか、おれの能力をむしろ淡々と受け止めるものだ。
目の前の仮面の男が、それまで好戦的に掲げていた両手を下げる。おれは自分の変身の能力を解除しながら、それを眺めていた。戦意を無くしているのは明白だが、男――キラーはこちらをいい趣味だと皮肉りはすれど、卑怯だとは罵らなかった。思えばあの死の外科医――トラファルガー・ローの仲間を捕らえ脅したとき、彼もこちらを卑怯だとは決して言わなかった。キラーもトラファルガーも、若いなりに海賊としての矜持があるのだろう。だからこそ彼らはカイドウに抗い続けることができる。
同時期に偉大なる航路を半周し終えた者として世間では一括りにされていたが、当時は互いが互いに自分こそが強者であると確信していたものである。
それから二年以上が過ぎ、全員が新世界に入った。まったく、偉大なる航路の前半が「楽園」であったことは事実だ。ある者は自分たちの限界を悟り、ある者は生き抜くために挑み続けることを誓った。どこで前者と後者の道が分かたれたのか。おれはカイドウの誘いに頷き、キッドとキラーは首を横に振った。だが恐らく、分かたれたのはその瞬間ではない。もっと以前からだ。同盟を組んだとき。違う。シャボンディ諸島で顔を会わせたとき。違う。偉大なる航路で懸賞金が一億を超えたとき。違う。そもそも、偉大なる航路に入った時。これも違う。恐らくは――この世に生まれたときから、そう決まっていた。
竜の姿でキッドとキラー、そしてその部下たちを焼き払うカイドウの傍らで、おれは自らに失望し、同時に興奮していた。
幼い頃読んだ絵物語である『海の戦士ソラ』の主人公ソラは、敵であるジェルマ66にどれだけ痛めつけられようと、絶対に諦めずに立ち向かっていた。それから、ソラの相棒は巨大ロボとカモメだと設定されている。ソラはその両方を、自分の命以上に大事にしていた。
おれはカイドウに屈せず、互いを庇いあうように戦うキッドとキラーを見ながら、確かにソラのことを思い出していた。ことキラーは、その後キッドを救うためにSMILEまで食ったという。なんという諦めの悪さ、忠誠心。もっとも、残虐と名高い海賊たちを、ヒーローになぞらえるのもおかしな話だが。
さて、例えばソラが、ジェルマにカモメを人質に取られ、そのジェルマを倒すにはまずカモメを殺さねばならない状況になったら。ソラはどのように戦うのだろうか。所詮『海の戦士ソラ』は勧善懲悪を是とする子ども向けの絵物語に過ぎないから、ジェルマがヘマをしてその隙にカモメを助け出すとか、そんな展開になるのかもしれない。
だが、おれの能力はそんな隙など与えやしない。さあ、どうするんだ、ヒーロー。キラーは仮面とSMILEの副作用のせいで本人の感情が見えないことだけが惜しいが、彼の選択が幼い頃の『海の戦士ソラ』のようにおれを楽しませてくれることは間違いがなかった。さあ、続きは次号の“世経”だ! 乞うご期待!