短文置き場

ルゾロとサンジ(ゾロは寝てるだけ)

2022/07/20 10:25
海賊
ごぽ、と鈍い音がした。ついさきほど釣りの最中に海に落ちたルフィを助けようとしたゾロがブーツを脱いだ音だ。頑丈さばかりを重視した黒いブーツは、乾くのに時間がかかるのだ。ゾロはブーツの中に入ってしまった水をこぼしてそこらに放ると、頭振って水を払い、濡れた服のまま甲板にごろんと寝転んだ。まるで犬ね、とナミが呆れた声を出す。
あっという間に寝に入ったゾロの足許に、助けられたばかりのルフィがしゃがみ込む。彼は大きな目でゾロの足を覗き込んだ。両足首にある傷跡は、いつかゾロが自分で自分の足を斬り落とそうとしたときのものだ。その後自身で雑にくっつけて、以後なんともなかったように歩いている。
ルフィはふと視界に入ったゾロの足の裏をよく見るために、彼の右足を両手で掴んだ。
「臭くねェか?」
後ろから声をかけてきたのはサンジである。ルフィが振り返ると、サンジの片手にはナミとロビンが飲んだあとのものだろう、背の高い空のグラスを置いたトレイがあった。奇矯なかたちの眉を寄せて、サンジはいかにも不快そうな顔をしている。ルフィはサンジが言うことを確かめるために、掴んだままだったゾロの足の裏に顔を寄せた。サンジが「うげっ」と声を上げる。
「昨日風呂入ったからそこまででもねェ!」
元気よく教えてやるが、サンジはやはり不快そうな顔のままだった。なお、ゾロも目を閉じたままである。
「ゾロの足の裏ってカチカチなんだよなー」
ルフィは言いながら、親指でゾロの足の裏をぶにぶにと押した。サンジのところからも、ゾロの足の裏は、あちこち角質が白っぽく固くなっているのが見えた。あれだけ重い靴を履いて踏ん張れば、さもありなん、といったところか。くすぐったいのかさすがにゾロも身をよじったが、結局目は開けずにされるがままだ。しばらくすると飽きたのか、ルフィはぱっとゾロの足を開放して、サンジを振り返った。ゾロの足はなんの支えもなく甲板に落ちる。
「サンジも足の裏けっこう硬いよな」
「……まあな」
見せねえぞ、と言い添えて、サンジは返事をした。足技で戦うサンジも、その威力を増大させるために底の硬い靴を選んでいる。そのせいか結構なたこやら魚の目ができてしまっていた。レディに見せることはそう多くない部位だし、治療しようとしたそばから硬くなっていくのでそのまま放置している。
「サンジもゾロも手にタコあるし」
気がつくとルフィはまた両手でゾロの手を取って、ぶにぶにとその手のひらを押している。サンジは反射的に自らの空いている方の左手を見た。包丁を握り続けてできたタコがあるのは事実だ。ばかりか、幼い頃にこさえた火傷や切り傷も多い。ゾロの手は……見ずともその有様がわかる気がした。刀を、ダンベルを、日々握りしめている硬い手なこだろうだ。
「おれ手も足も全然硬くなんねえんだよな」
ルフィは残念そうな声を出した。サンジは肩をすくめると、「そりゃオメーがゴム人間だからだろ」と至極もっともなことを言った。
「やっぱそうなのかなー」
言いながら、ルフィはゾロの手を落とした。そして次には更に身を乗り出して、今度はゾロの頬を両手で挟んだ。瞬間、サンジは心臓のあたりにぞわりと寒気がした。
「ゾロはさあ、刀噛んでっからこの辺もガチガチなんだよな」
言いながらルフィはゾロの口はしをまたぶにぶに交互に押し込んでいる。人間そんなところも固くなることがあるのか、とサンジは訝しく思ったが、すぐに彼が強く刀の柄を噛み締めているせいで、口もとの筋肉が強張っているであろうことに思い当たった。
別になんのことはない、いつもの船長の戯れに過ぎないはずだ。ルフィは誰とでも距離が近くて、てらいなくからだとからだをくっつけるところがある。男でも女でも遠慮なしだ。それが最初の仲間たるゾロに発揮されることはさもありなんといったところで、なんの不思議もないはずなのに。サンジはかぶりを振って、長く息を吐いた。
「ずっと揉んでたら柔らかくなんねェかなー」
「ハ、それはこのマリモが三刀流やめねェ限り無理だな」
「んー、そっか、それじゃあずっと硬いまんまでいいや」
ルフィは今度こそゾロから離れた。顔を開放されたゾロは相変わらず眠りこけている。飼い主にされるがままの犬のようだ。そういえばさっきナミさんもこいつを犬みたいだって言ってたっけ、さすがだナミさん……サンジは考えながらいい加減にそこを離れるべきであったことを悟ったのだった。

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