厄災前の英傑達の物語を聞いて育った少女の物語。
出会い〜旅立ち
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暗い地下道に、ぼんやりとランタンの灯りが漏れている。少し錆の浮いた鉄格子の奥で、一人の少女が本を読んでいる。
彼女の名はヨルダ。王家にとって凶星と言われる双子のかたわれとして生まれ、物心つく頃にはすでにこの地下牢に幽閉され、彼女にとってはこの地下牢が生活を営む家だった。
カツン、…コツン
静かな足音を立てて、一人のメイドが姿を表した。
「姫様、失礼いたしますね」
メイドは食事を載せた盆を持って牢へと入ってきた。どうやら、朝食の時間らしい。
「ありがとう、シエラ」
ヨルダは読んでいた本に羽のしおりを挟んで、豪華なテーブルに身を移した。
幽閉というと聞こえが悪いものの、その中は地下牢にしては到底不釣り合いな、美しく高価な調度品で整えられていた。
ヨルダがゆっくりと食事を摂ると、一旦下がっていたシエラが再び、湯桶や布などを持って入ってきた。
それを見たヨルダが、ドレッサーの前に座る。
シエラは慣れた手つきで、ヨルダの顔を温かく柔らかな布で拭き清め、着ていた夜着から日中用の比較的簡素なドレスに着替えさせる。そして美しい金の髪を丁寧に櫛で梳いた。
「いつもありがとう、シエラ」
「いいえ。王様からもヨルダ様の身の回りのお世話をするようにと申しつけられておりますし、何より姫様のお世話をするのは、私の生きがいなのですよ」
初老のシエラにとってヨルダは、長年世話をしてきた娘のようなものだった。小さな頃からこの日の届かない暗い地下に閉じ込められ、城の中でもヨルダの存在を知るものは少ない。
王がシエラにヨルダの世話を命じて肌や髪を美しく整えさせるのも、表の姫であるゼルダのいざというときの影武者となれるようにという理由付けだったが、シエラはこの控えめだが優しく聡明な姫が好きだった。
「姫様、17歳のお誕生日、おめでとうございます」
「そうだったわね…ありがとう。ということは、今日はゼルダが知恵の泉に修行に出かける日ね。」
「はい、今朝早く、英傑の皆さまとお出かけになられました」
「そう…封印の力、無事に目覚めるとよいのだけど…。」
そう言ってヨルダは少しうつむいた。
実はゼルダは父に隠れてよくこの地下牢に遊びに来ていた。表に出すことのできない不安や、封印の力の後継者としての重圧へのストレス、父に諌められている遺物の研究成果、外であったことなどを話しに来るのだ。
重い期待ののしかかる一国の姫であるゼルダにとっては、城内で唯一ヨルダのいるこの地下だけが、息のつける場所だったのだ。
「きっと大丈夫ですわ、ゼルダ様はとても勤勉な方ですもの」
「そうよ…ね。ごめんなさい、なんだか今日は少し胸騒ぎがして…」
「あら、それはいけません。御身体の具合でも?」
「そういうわけではないのよ。大丈夫。」
「そうですか?では一旦下がらせていただきますが、なにかございましたら、いつものようにそちらの紐を引いてお知らせくださいませ」
「ええ…わかったわ」
シエラがいなくなっても、ヨルダの胸はなにか嫌な違和感が残った。
何も、起きなければよいのだが……
数時間後、ヨルダが再び読書をしていると、突然えも言われぬ邪悪な気配が漂ってきたかと思うと、大きく地面が揺れた。
全身が粟立つ。これは、まさか…
「厄災…」
かすかに城の上から、慌ただしく不穏な衝撃音が聞こえてくる。
すぐにでも様子を見に行きたかったが、ヨルダはここから出る術を持っていなかった。
どうすべきか思案しているうちに、何人かの足音と甲冑の擦れ合う音が聞こえ、牢の前に王と近衛兵が現れた。
「お父様…」
「久しいな、ヨルダよ。儂がここに来た理由は、お前も勘付いてはいるだろう。恐れていたことが起きた。厄災が復活してしまったのだ。ゼルダはまだ知恵の泉に出かけて戻っておらんが、見つけ次第どこかに身を隠すよう伝えるつもりだ」
王は切迫した表情で牢ごしにそう早口で伝えると、近衛兵に牢を開けさせ、またもう一人が青い衣装を持って立ち入った。
「ヨルダ…わかっておろうな」
「ええ、お父様。本来なら赤子の頃に殺されていたはずの私がここで生かされていたのは、このときのためですもの」
苦しげな表情で問う王に対して、ヨルダは覚悟が決まっていたのか、揺るぎのない表情で衣装を受け取った。
気丈すぎる娘に王は何かを言おうと口を開いたが、俯きゆっくりと首を横に振った。
そのまま、何も言わず兵を引き連れ、振り返ることなく去ってゆく。
「………リンク…」
誰もいなくなった牢で、ヨルダがポツリとつぶやく。
彼女の脳裏に浮かんでいるのは、本来ならば自分とは交わることのない、退魔の騎士の姿だった。
◇ ◇ ◇
リンクは小さな頃、近衛兵の父にくっついて城にやってきたとき、こっそりと城内を探検し、この牢にやってきたのだ。
「あれ?」
地下牢にしてはあまりにも似つかわしくない様子に、リンクは興味を惹かれ鉄格子へと近づいた。
「あなた…だあれ?どうやってここまで来たの?」
鉄格子の中から、少し年下と思われる女の子が話しかけてきたので、リンクはとても驚いた。
「ぼく…リンク。きみはだれ?どうしてこんなところに入れられているの?」
「わたしは、ヨルダ。どうしてって言われても、ここがわたしのお家なのよ。とってもすてきでしょ」
屈託なく笑う少女を見て、リンクはここがとってもすてきとはとても思えなかったが、なんだか面白くて笑ってしまった。
「ふうん、ヨルダっていうの。ねえ、またここに来てもいい?」
「え…わたしは、うれしいけれど…でも、わたしがここにいることは、だれにも知られてはいけないの」
「わかった、だれにもいわない。ぼく、かくれんぼ得意なんだ!きっとだれにも見つからずに、またきみに会いに来るね」
そう言って、リンクは鉄格子ごしに手を差しのべた。
ヨルダは嬉しそうにはにかむと、そっとその手に自らの手を重ねた。
◇ ◇ ◇
十数年が経ったが、その後もリンクは約束を違えることなく、空いた時間にヨルダのもとへと通っていた。
兵の模範たれと、自身の感情を押し殺すようになっても、ここに来るときだけは、すこし元の感情を見せることができたのだ。
「ねえリンク…リンクはゼルダの近衛騎士なのだから、あまりここに来ないほうが良いと思うのだけれど…」
ある日、ゼルダの護衛を終えたリンクに、ヨルダは遠慮がちに伝えた。
「ヨルダは、俺がここに来るの嫌なの?」
え!とヨルダは思いもよらない返しに驚いて、ブンブンと首を横に振った。
「そんなわけない!」
「なら俺はここに来るよ。俺は騎士だから、王の命令には背けない。だけど俺は王家の姫の近衛騎士だから、なにかあったら、王の命がないかぎり、俺は守りたい人を守りたい」
そう話す、双子の姉のお付きの騎士に、ヨルダはなぜだかすこし涙ぐむ。
「だから、もし何かあったときは俺がヨルダを守る。約束だ」
リンクはそう言って微笑むと、鉄格子越しにヨルダの涙を拭い、彼女の手を取ると、そっと小指を絡めた。
◇ ◇ ◇
「リンク…約束、守れなくて、ごめん」
ヨルダは着ていた服を脱ぎ捨て、先ほど兵士に渡された青い衣装を身にまとった。
身体にピッタリと合うその服は、ゼルダが式典の時などに着る王家の青をあしらったドレスだった。
そのまま、城外へ、城下町へと走り出る。
ドレスの裾や袖が風に舞い、青をなびかせた。
走るのには不向きな服だったが、魔物の意識をコチラにむけるのには最適だった。
あちらこちらから悲鳴や怒号が響く城下町を、はぐれた母を探して悲嘆に暮れる子供の声を見ないように、早く早く、と南へ駆ける。
私にはまだすることがある。
あの場所へ、私の力がおそらく最も強く働くあの場所へ急がなければ!
目的の式典場へとたどり着く頃には、矢や炎がかすり、美しかった衣も髪も、ボロボロになっていた。
ようやく立ち止まった彼女に、勝利を確信した魔物たちが耳障りな声を上げてにじりよる。
それらをすべて意識の外へと追いやると、ヨルダはギュッと固く手を組み、祈りを捧げるように目を閉じた。
いまこそ私の力…この世界の未来のために!
だが無情にもそこに魔物の刃が襲う、そのときだった。
青いマントを翻し、飛び出した男が少女の身体を庇うように抱いた。
ドスッ
鈍い音と共に、彼女の身体から眩い光が放たれ、四方の彼方へと消えていく。
役目を終えた彼女が目を開けると、そこには、もう二度と見ることはないと思っていた、父の姿があった。
「おとう…さま…」
呆然とつぶやくと、父の身体から剣が引き抜かれ、おびただしい血がヨルダの身体に流れ落ちる。
「ヨルダ…ヨルダ、すまない……お前のことも…愛していた…可愛い我が、むす…め、よ…」
ヨルダは初めての父の抱擁を受けながら、微笑んだ。
「ええ…ええ……お父様、私を育ててくださって…ありが…」
ようやく邂逅した父娘のことを引き裂くように、無情な矢の雨が降る。
二人は固く抱き合ったまま、共に地面へと斃れる。
魔物たちが王家の姫を仕留めたことに大歓声をあげる
激しい雨が、二人の血を洗い流すかのように降り注いでいた。
彼女の名はヨルダ。王家にとって凶星と言われる双子のかたわれとして生まれ、物心つく頃にはすでにこの地下牢に幽閉され、彼女にとってはこの地下牢が生活を営む家だった。
カツン、…コツン
静かな足音を立てて、一人のメイドが姿を表した。
「姫様、失礼いたしますね」
メイドは食事を載せた盆を持って牢へと入ってきた。どうやら、朝食の時間らしい。
「ありがとう、シエラ」
ヨルダは読んでいた本に羽のしおりを挟んで、豪華なテーブルに身を移した。
幽閉というと聞こえが悪いものの、その中は地下牢にしては到底不釣り合いな、美しく高価な調度品で整えられていた。
ヨルダがゆっくりと食事を摂ると、一旦下がっていたシエラが再び、湯桶や布などを持って入ってきた。
それを見たヨルダが、ドレッサーの前に座る。
シエラは慣れた手つきで、ヨルダの顔を温かく柔らかな布で拭き清め、着ていた夜着から日中用の比較的簡素なドレスに着替えさせる。そして美しい金の髪を丁寧に櫛で梳いた。
「いつもありがとう、シエラ」
「いいえ。王様からもヨルダ様の身の回りのお世話をするようにと申しつけられておりますし、何より姫様のお世話をするのは、私の生きがいなのですよ」
初老のシエラにとってヨルダは、長年世話をしてきた娘のようなものだった。小さな頃からこの日の届かない暗い地下に閉じ込められ、城の中でもヨルダの存在を知るものは少ない。
王がシエラにヨルダの世話を命じて肌や髪を美しく整えさせるのも、表の姫であるゼルダのいざというときの影武者となれるようにという理由付けだったが、シエラはこの控えめだが優しく聡明な姫が好きだった。
「姫様、17歳のお誕生日、おめでとうございます」
「そうだったわね…ありがとう。ということは、今日はゼルダが知恵の泉に修行に出かける日ね。」
「はい、今朝早く、英傑の皆さまとお出かけになられました」
「そう…封印の力、無事に目覚めるとよいのだけど…。」
そう言ってヨルダは少しうつむいた。
実はゼルダは父に隠れてよくこの地下牢に遊びに来ていた。表に出すことのできない不安や、封印の力の後継者としての重圧へのストレス、父に諌められている遺物の研究成果、外であったことなどを話しに来るのだ。
重い期待ののしかかる一国の姫であるゼルダにとっては、城内で唯一ヨルダのいるこの地下だけが、息のつける場所だったのだ。
「きっと大丈夫ですわ、ゼルダ様はとても勤勉な方ですもの」
「そうよ…ね。ごめんなさい、なんだか今日は少し胸騒ぎがして…」
「あら、それはいけません。御身体の具合でも?」
「そういうわけではないのよ。大丈夫。」
「そうですか?では一旦下がらせていただきますが、なにかございましたら、いつものようにそちらの紐を引いてお知らせくださいませ」
「ええ…わかったわ」
シエラがいなくなっても、ヨルダの胸はなにか嫌な違和感が残った。
何も、起きなければよいのだが……
数時間後、ヨルダが再び読書をしていると、突然えも言われぬ邪悪な気配が漂ってきたかと思うと、大きく地面が揺れた。
全身が粟立つ。これは、まさか…
「厄災…」
かすかに城の上から、慌ただしく不穏な衝撃音が聞こえてくる。
すぐにでも様子を見に行きたかったが、ヨルダはここから出る術を持っていなかった。
どうすべきか思案しているうちに、何人かの足音と甲冑の擦れ合う音が聞こえ、牢の前に王と近衛兵が現れた。
「お父様…」
「久しいな、ヨルダよ。儂がここに来た理由は、お前も勘付いてはいるだろう。恐れていたことが起きた。厄災が復活してしまったのだ。ゼルダはまだ知恵の泉に出かけて戻っておらんが、見つけ次第どこかに身を隠すよう伝えるつもりだ」
王は切迫した表情で牢ごしにそう早口で伝えると、近衛兵に牢を開けさせ、またもう一人が青い衣装を持って立ち入った。
「ヨルダ…わかっておろうな」
「ええ、お父様。本来なら赤子の頃に殺されていたはずの私がここで生かされていたのは、このときのためですもの」
苦しげな表情で問う王に対して、ヨルダは覚悟が決まっていたのか、揺るぎのない表情で衣装を受け取った。
気丈すぎる娘に王は何かを言おうと口を開いたが、俯きゆっくりと首を横に振った。
そのまま、何も言わず兵を引き連れ、振り返ることなく去ってゆく。
「………リンク…」
誰もいなくなった牢で、ヨルダがポツリとつぶやく。
彼女の脳裏に浮かんでいるのは、本来ならば自分とは交わることのない、退魔の騎士の姿だった。
◇ ◇ ◇
リンクは小さな頃、近衛兵の父にくっついて城にやってきたとき、こっそりと城内を探検し、この牢にやってきたのだ。
「あれ?」
地下牢にしてはあまりにも似つかわしくない様子に、リンクは興味を惹かれ鉄格子へと近づいた。
「あなた…だあれ?どうやってここまで来たの?」
鉄格子の中から、少し年下と思われる女の子が話しかけてきたので、リンクはとても驚いた。
「ぼく…リンク。きみはだれ?どうしてこんなところに入れられているの?」
「わたしは、ヨルダ。どうしてって言われても、ここがわたしのお家なのよ。とってもすてきでしょ」
屈託なく笑う少女を見て、リンクはここがとってもすてきとはとても思えなかったが、なんだか面白くて笑ってしまった。
「ふうん、ヨルダっていうの。ねえ、またここに来てもいい?」
「え…わたしは、うれしいけれど…でも、わたしがここにいることは、だれにも知られてはいけないの」
「わかった、だれにもいわない。ぼく、かくれんぼ得意なんだ!きっとだれにも見つからずに、またきみに会いに来るね」
そう言って、リンクは鉄格子ごしに手を差しのべた。
ヨルダは嬉しそうにはにかむと、そっとその手に自らの手を重ねた。
◇ ◇ ◇
十数年が経ったが、その後もリンクは約束を違えることなく、空いた時間にヨルダのもとへと通っていた。
兵の模範たれと、自身の感情を押し殺すようになっても、ここに来るときだけは、すこし元の感情を見せることができたのだ。
「ねえリンク…リンクはゼルダの近衛騎士なのだから、あまりここに来ないほうが良いと思うのだけれど…」
ある日、ゼルダの護衛を終えたリンクに、ヨルダは遠慮がちに伝えた。
「ヨルダは、俺がここに来るの嫌なの?」
え!とヨルダは思いもよらない返しに驚いて、ブンブンと首を横に振った。
「そんなわけない!」
「なら俺はここに来るよ。俺は騎士だから、王の命令には背けない。だけど俺は王家の姫の近衛騎士だから、なにかあったら、王の命がないかぎり、俺は守りたい人を守りたい」
そう話す、双子の姉のお付きの騎士に、ヨルダはなぜだかすこし涙ぐむ。
「だから、もし何かあったときは俺がヨルダを守る。約束だ」
リンクはそう言って微笑むと、鉄格子越しにヨルダの涙を拭い、彼女の手を取ると、そっと小指を絡めた。
◇ ◇ ◇
「リンク…約束、守れなくて、ごめん」
ヨルダは着ていた服を脱ぎ捨て、先ほど兵士に渡された青い衣装を身にまとった。
身体にピッタリと合うその服は、ゼルダが式典の時などに着る王家の青をあしらったドレスだった。
そのまま、城外へ、城下町へと走り出る。
ドレスの裾や袖が風に舞い、青をなびかせた。
走るのには不向きな服だったが、魔物の意識をコチラにむけるのには最適だった。
あちらこちらから悲鳴や怒号が響く城下町を、はぐれた母を探して悲嘆に暮れる子供の声を見ないように、早く早く、と南へ駆ける。
私にはまだすることがある。
あの場所へ、私の力がおそらく最も強く働くあの場所へ急がなければ!
目的の式典場へとたどり着く頃には、矢や炎がかすり、美しかった衣も髪も、ボロボロになっていた。
ようやく立ち止まった彼女に、勝利を確信した魔物たちが耳障りな声を上げてにじりよる。
それらをすべて意識の外へと追いやると、ヨルダはギュッと固く手を組み、祈りを捧げるように目を閉じた。
いまこそ私の力…この世界の未来のために!
だが無情にもそこに魔物の刃が襲う、そのときだった。
青いマントを翻し、飛び出した男が少女の身体を庇うように抱いた。
ドスッ
鈍い音と共に、彼女の身体から眩い光が放たれ、四方の彼方へと消えていく。
役目を終えた彼女が目を開けると、そこには、もう二度と見ることはないと思っていた、父の姿があった。
「おとう…さま…」
呆然とつぶやくと、父の身体から剣が引き抜かれ、おびただしい血がヨルダの身体に流れ落ちる。
「ヨルダ…ヨルダ、すまない……お前のことも…愛していた…可愛い我が、むす…め、よ…」
ヨルダは初めての父の抱擁を受けながら、微笑んだ。
「ええ…ええ……お父様、私を育ててくださって…ありが…」
ようやく邂逅した父娘のことを引き裂くように、無情な矢の雨が降る。
二人は固く抱き合ったまま、共に地面へと斃れる。
魔物たちが王家の姫を仕留めたことに大歓声をあげる
激しい雨が、二人の血を洗い流すかのように降り注いでいた。