厄災前の英傑達の物語を聞いて育った少女の物語。
出会い〜旅立ち
なまえ設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ざあぁぁ_…
大粒の雨がはげしく地面叩くなか、バシャバシャと音を立てながら1人の青年が少女の手を引き、森の中をひた走る。
ふと後ろを気にした少女が足をつまずき、地面に倒れ込んだ。
青年、リンクはハッと振り返り、うずくまる少女、ゼルダの下へと歩み寄る。
「どうして……」
雨にかき消されてしまいそうな、ゼルダのか細い声。
「どうして、こんなことに…」
リンクが、ゼルダの声が聞こえるよう、そばにしゃがみこんだ。
「神獣が…ガーディアンが……わたしたちを襲うなんて……厄災に…ガノンに……奪われるなんて!」
地面の上で少女の拳が固く握りしめられる。
「ダルケルもリーバルもミファーも…ウルボザもきっともう神獣の中で……」
「ひめさ…」
「それに、ヨルダまで身代わりに……私のせいです!!」
ヨルダという名を聞き、青年がビクリと身体を震わせた。
脳裏につい先ほどの出来事が蘇る。
それは、異変を感知した英傑たちがそれぞれの神獣へと赴き、少女と青年が魔物に知れぬよう城に向かったときのことだった…
◇ ◇ ◇
城下町はすでに魔物の大群が押し寄せ、あちこちから火があがっていた。
「きゃああ、たすけて!瓦礫の下にこどもが…!!」
「火がまわる、早く風上へ逃げろ!!!」
「おかあさん!おかあさん!!」
「あぁ…っ街が…民達が…!」
街が混乱を極めるなか、ゼルダはリンクに手を引かれ、城へと走っていた。
城門はすでに破られ、城の中も混戦の最中の様だ。
リンクが倒れていた兵士に状況を問う。
「王は…地下に向かわれた……ヨルダ様を身代わりになさる…と…」
「ヨルダを!!?」
ゼルダが顔を真っ青にしてリンクに向き直って言った。
「リンク…!お父様は、ヨルダを…私の双子の妹を、私の代わりに魔物に差し出す気です!止めなければ…ヨルダは…!」
リンク達は頷くと、城下町の地下につながる通路に急いだ。隠し扉を開き、はしごを使って地下へと降りる。
そこは王家の危機に使われる隠し通路だった。
城内へと続く地下通路の途中には、罪を犯した王家の者を幽閉しておく牢がある。ヨルダはそこにいるはずだった。
地下水の流れる音と、二人の足音だけが響く静かだった空間に、反対側から大勢の足音と松明の光が揺らめいた。
「っ、姫様、後ろに」
警戒したリンクがゼルダを自分の後ろにやって、剣を構える。
しかし、そこに現れたのは二人のよく知る人物だった。
「リンク!…ゼルダもおったか」
「お父様…!」
現れたのが兵士たちを率いたハイラル王であるとわかったリンクが、剣を収め脇に控える。
「お父様!ご無事だったのですね…城はどうなっているのです、ヨルダは?」
「厄災が復活した。城内はすでに魔物に占拠され、頼みのガーディアン達までもが寝返ったかのようだ…。ゼルダよ、一刻も早く逃げるのだ。」
「お父様、ヨルダも、妹も一緒に逃げなければ!ここを通してください!」
ゼルダの必死の懇願を、ハイラル王は目を伏せてはねのけた。
「ゼルダよ。なぜヨルダが幽閉されたか、お前もわかっておろう。過去より、双子は凶星だった。王家に生まれた女は皆、魔を封じる力を持つ。だが双子の場合、その力が分散されるとして、封印の力を持たぬ姫は存在してはならなかったのだ。しかし……余は、余はヨルダを…殺すことができなかった。この厄災は、ゼルダが封印の力に目覚めぬのは…この不甲斐ない王の要らぬ情のせいだったのやもしれぬ。」
「そんな!お父様!」
「ヨルダは言ったのだ。ゼルダを生かせと。自分が……いなくなれば、ゼルダが封印の力に目覚める、そうすれば皆助かる……ゼルダに瓜二つの自分が魔物の手にかかれば、魔物はゼルダが死んだと思うに違いないからと…」
「お父様!ダメです!ヨルダを、ヨルダを助けなければ…!」
ゼルダが美しい金髪を振り乱し父に掴みかかったが、王はそれを退け、控えていたリンクに命じた。
「リンクよ。民を捨て置くことはできん。余もここから出て街を守るため参戦するつもりだ。厄災はすでに復活し、お主といえど、封印の力なしにガノンを倒すことはかなわんだろう。一刻も早くゼルダを城から逃がすのだ。お前が時々ヨルダと会うためこの地下牢に通っていたことは知っているが…決してヨルダを救おうなどと考えるな。さあ、行け!」
「はっ」
「いやです、お父様!リンク、ダメです、ヨルダを!ヨルダが死んでしまうんですよ!!」
リンクの目はほんの一瞬揺らぎを見せたが、一度目を伏せてまた開いたときには、一切の感情をなくしていた。
ゼルダの手を引き踵を返すと、王命を全うすべく、ゼルダの叫びを無視して街の外へと向かう。
「お父様!ヨルダ…いやです、いや…!!」
「リンク…姫を…娘を、頼んだぞ…」
残された王の言葉は、暗い地下道へと消えていった。
◇◇◇
突然の異変に混乱した城下町の喧騒の中を、一人の少女が走り抜けていく。
金糸の長髪と、王家の証である青い衣の裾を翻し、早く早く、街の外へと彼女は駆けた。
「ゼルダヒメだ、ゼルダヒメを捕らえろ」
「アッチに走っていった!」
魔物やガーディアン達が少女を追う。
そう、少女はやたらと目立つ青い装束をこれでもかと見せつけるように走った。
街の中心、城から続いた地下道の出口から離れて南、式典場の方へと。
リンクがそっと外の様子を窺うと、魔物は皆とある方向へと流れていったようで、その場は比較的静かだった。
ゼルダの手を離さぬよう、きつく握りしめ、リンクは東へ走った。
東の城壁をくぐり、身を隠すため森へと向かうその道すがら。
リンクは見た。式典場のその真ん中。
ゼルダとよく似た金糸の髪を持つ少女が、魔物に囲まれ佇んでいる。
魔物たちはキィキィと耳障りな声を上げ、何が嬉しいのか武器を高らかに上げて跳びはねている。
見てはいけない。だめだ。わかっているのに、目が離せなかった。
そこからはなぜかスローモーションのように見えた。
少女は、祈るように手を組み、目を閉じている。
一匹のライネルが少女に向かって剣を振り下ろす。
そこに、大きな人影が素早く現れ、覆いかぶさった。
その背中に、ライネルの剣が深々と突き刺さった。
その瞬間、少女の身体が淡く光を放ったかと思えば、収束し四方へ飛び、消えた。
「おとう…さま…」
「…ヨルダ…ヨルダ、すまない……お前のことも…愛していたのだ…可愛い我が、むす…め、よ…」
矢の雨が降る。
ヨルダは、初めての父の抱擁を受け、同時に父のものか自分のものかもわからぬ血を浴びながら、その場に崩れ落ちたのだった。
大粒の雨がはげしく地面叩くなか、バシャバシャと音を立てながら1人の青年が少女の手を引き、森の中をひた走る。
ふと後ろを気にした少女が足をつまずき、地面に倒れ込んだ。
青年、リンクはハッと振り返り、うずくまる少女、ゼルダの下へと歩み寄る。
「どうして……」
雨にかき消されてしまいそうな、ゼルダのか細い声。
「どうして、こんなことに…」
リンクが、ゼルダの声が聞こえるよう、そばにしゃがみこんだ。
「神獣が…ガーディアンが……わたしたちを襲うなんて……厄災に…ガノンに……奪われるなんて!」
地面の上で少女の拳が固く握りしめられる。
「ダルケルもリーバルもミファーも…ウルボザもきっともう神獣の中で……」
「ひめさ…」
「それに、ヨルダまで身代わりに……私のせいです!!」
ヨルダという名を聞き、青年がビクリと身体を震わせた。
脳裏につい先ほどの出来事が蘇る。
それは、異変を感知した英傑たちがそれぞれの神獣へと赴き、少女と青年が魔物に知れぬよう城に向かったときのことだった…
◇ ◇ ◇
城下町はすでに魔物の大群が押し寄せ、あちこちから火があがっていた。
「きゃああ、たすけて!瓦礫の下にこどもが…!!」
「火がまわる、早く風上へ逃げろ!!!」
「おかあさん!おかあさん!!」
「あぁ…っ街が…民達が…!」
街が混乱を極めるなか、ゼルダはリンクに手を引かれ、城へと走っていた。
城門はすでに破られ、城の中も混戦の最中の様だ。
リンクが倒れていた兵士に状況を問う。
「王は…地下に向かわれた……ヨルダ様を身代わりになさる…と…」
「ヨルダを!!?」
ゼルダが顔を真っ青にしてリンクに向き直って言った。
「リンク…!お父様は、ヨルダを…私の双子の妹を、私の代わりに魔物に差し出す気です!止めなければ…ヨルダは…!」
リンク達は頷くと、城下町の地下につながる通路に急いだ。隠し扉を開き、はしごを使って地下へと降りる。
そこは王家の危機に使われる隠し通路だった。
城内へと続く地下通路の途中には、罪を犯した王家の者を幽閉しておく牢がある。ヨルダはそこにいるはずだった。
地下水の流れる音と、二人の足音だけが響く静かだった空間に、反対側から大勢の足音と松明の光が揺らめいた。
「っ、姫様、後ろに」
警戒したリンクがゼルダを自分の後ろにやって、剣を構える。
しかし、そこに現れたのは二人のよく知る人物だった。
「リンク!…ゼルダもおったか」
「お父様…!」
現れたのが兵士たちを率いたハイラル王であるとわかったリンクが、剣を収め脇に控える。
「お父様!ご無事だったのですね…城はどうなっているのです、ヨルダは?」
「厄災が復活した。城内はすでに魔物に占拠され、頼みのガーディアン達までもが寝返ったかのようだ…。ゼルダよ、一刻も早く逃げるのだ。」
「お父様、ヨルダも、妹も一緒に逃げなければ!ここを通してください!」
ゼルダの必死の懇願を、ハイラル王は目を伏せてはねのけた。
「ゼルダよ。なぜヨルダが幽閉されたか、お前もわかっておろう。過去より、双子は凶星だった。王家に生まれた女は皆、魔を封じる力を持つ。だが双子の場合、その力が分散されるとして、封印の力を持たぬ姫は存在してはならなかったのだ。しかし……余は、余はヨルダを…殺すことができなかった。この厄災は、ゼルダが封印の力に目覚めぬのは…この不甲斐ない王の要らぬ情のせいだったのやもしれぬ。」
「そんな!お父様!」
「ヨルダは言ったのだ。ゼルダを生かせと。自分が……いなくなれば、ゼルダが封印の力に目覚める、そうすれば皆助かる……ゼルダに瓜二つの自分が魔物の手にかかれば、魔物はゼルダが死んだと思うに違いないからと…」
「お父様!ダメです!ヨルダを、ヨルダを助けなければ…!」
ゼルダが美しい金髪を振り乱し父に掴みかかったが、王はそれを退け、控えていたリンクに命じた。
「リンクよ。民を捨て置くことはできん。余もここから出て街を守るため参戦するつもりだ。厄災はすでに復活し、お主といえど、封印の力なしにガノンを倒すことはかなわんだろう。一刻も早くゼルダを城から逃がすのだ。お前が時々ヨルダと会うためこの地下牢に通っていたことは知っているが…決してヨルダを救おうなどと考えるな。さあ、行け!」
「はっ」
「いやです、お父様!リンク、ダメです、ヨルダを!ヨルダが死んでしまうんですよ!!」
リンクの目はほんの一瞬揺らぎを見せたが、一度目を伏せてまた開いたときには、一切の感情をなくしていた。
ゼルダの手を引き踵を返すと、王命を全うすべく、ゼルダの叫びを無視して街の外へと向かう。
「お父様!ヨルダ…いやです、いや…!!」
「リンク…姫を…娘を、頼んだぞ…」
残された王の言葉は、暗い地下道へと消えていった。
◇◇◇
突然の異変に混乱した城下町の喧騒の中を、一人の少女が走り抜けていく。
金糸の長髪と、王家の証である青い衣の裾を翻し、早く早く、街の外へと彼女は駆けた。
「ゼルダヒメだ、ゼルダヒメを捕らえろ」
「アッチに走っていった!」
魔物やガーディアン達が少女を追う。
そう、少女はやたらと目立つ青い装束をこれでもかと見せつけるように走った。
街の中心、城から続いた地下道の出口から離れて南、式典場の方へと。
リンクがそっと外の様子を窺うと、魔物は皆とある方向へと流れていったようで、その場は比較的静かだった。
ゼルダの手を離さぬよう、きつく握りしめ、リンクは東へ走った。
東の城壁をくぐり、身を隠すため森へと向かうその道すがら。
リンクは見た。式典場のその真ん中。
ゼルダとよく似た金糸の髪を持つ少女が、魔物に囲まれ佇んでいる。
魔物たちはキィキィと耳障りな声を上げ、何が嬉しいのか武器を高らかに上げて跳びはねている。
見てはいけない。だめだ。わかっているのに、目が離せなかった。
そこからはなぜかスローモーションのように見えた。
少女は、祈るように手を組み、目を閉じている。
一匹のライネルが少女に向かって剣を振り下ろす。
そこに、大きな人影が素早く現れ、覆いかぶさった。
その背中に、ライネルの剣が深々と突き刺さった。
その瞬間、少女の身体が淡く光を放ったかと思えば、収束し四方へ飛び、消えた。
「おとう…さま…」
「…ヨルダ…ヨルダ、すまない……お前のことも…愛していたのだ…可愛い我が、むす…め、よ…」
矢の雨が降る。
ヨルダは、初めての父の抱擁を受け、同時に父のものか自分のものかもわからぬ血を浴びながら、その場に崩れ落ちたのだった。