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その日、仕事帰りの土門の姿は百貨店にあった。
明日が非番である土門は、たまには旨い酒を仕入れようと足を伸ばしたのだ。
真っ直ぐ地下の食料品階へ向かおうとしていた土門だったが、すれ違った若い女性たちの話に足を止めた。そしてさらに続きを聞こうと、彼女たちの後を追いかけていった。
そしてたどり着いた店で、土門はあるものを手にとる。
いくつか見比べ、そのうちの一つを選んだ。

「この色がいいな。あいつに似合いそうだ」

ラッピングも何もない。
店員から受け取ったそれをスーツのポケットに入れると、今度こそ、土門は地下へ向かった。



翌日の昼休み、土門は京都府警の屋上扉を開けた。
そこには、探していた人物がコーヒー片手にちょうど一休みしていた。

「榊」
「土門さん?今日って非番じゃなかった?」
「そうだ」
「どうしたの?呼び出し?」
「いや。お前に渡したいものがあって来た」
「そんな、わざわざ。明日じゃ駄目だったの?」
「ああ。今日じゃないとな」
「なにかしら?」
「こいつだ」

ポンッと軽く小さな箱がマリコの手のひらに落ちてきた。

「これ……リップ?」
「今日は『くちびるの日』だそうだ。知ってたか?」

マリコは首を振る。

「だと思った。“ニッ”という笑顔が理由らしい」

土門は盗み聞きした女性たちの話をマリコにも聞かせた。

「そうなんだ」
「そんな話を耳にしてな。たまにはサプライズプレゼントだ」
「ありがとう」
「つけてくれるか?」
「もちろん!」

土門の目は、ずっとマリコの唇の動きを追っていた。
人の唇は予想以上に様々な形に変化する。
伸びたり、窄まったり。
相手が恋人であれば、その動きには仄かな色気が漂う。

「なあ」
「?」
「今日は何時に帰れる?お前のうちで待っていてもいいか?」
「いいけど…。どうしたの?」
「そのリップ。つけたところが見たくなった」

マリコは目を瞠り、次の瞬間にはくすりと笑った。

「夕飯、作ってくれる?」
「ビールもつけようか?」
「いいわね!」
「よし。じゃあ、待ってるぞ」
「うん。あとでね」

土門は背中越しに手を降って、屋上を出ていった。


マリコはリップを繰り出してみた。

「キレイな色…」

土門が選んだのは、サンタベリーと名前のついた赤いリップだった。サンタベリーとは、北欧のラップランドの森に自生する真っ赤な果実だ。
その鮮やかさが、マリコの色白な肌にはよく映えるだろうと、土門は気に入ったのだった。



「どうかしら?」

帰宅したマリコは、さっそくリップをつけてみた。

「思った通り、よく似合うな」
「このリップ、土門さんのネクタイの色と似ているわよね」
「そうか?」
「まるで土門さんの色に染まったみたい…」

マリコは、はにかんで自分の唇に触れる。

「なっ!?」

「…んて、煽り方しやがる」と言わんばかりに、噛み付くようなキスをされて、せっかくのリップが剥がれ落ちてしまった。

それでもマリコは怒らない。

なぜかって?

それは。
唇だけじゃなくて、この身すべてをあなた色に染めて欲しいから。



(こっそり)
管「送信ありがとうございました!(≧∇≦)管理人の頑張る源です。ぜひまたお越しください(^^)」


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