『道』

『道』side.M




『道』とは、しばしば人生を表現する上で例えに用いられることがある。
『道半ば』然り、『回り道』然り。


マリコが今歩んでいる『道』の隣には、常に一定の距離を保ち、同じ方角に伸びる『道』がある。

その『道』を歩んでいるのは土門だ。

いつから隣を歩いているのか、マリコには思い出せない。
気づいたときには、すでにそこに『道』はあった。

決して交わりはしないが、どちらかが先を行くことも、遅れをとることも、これまで一度もなかった。

それなのに。

今は足音の不協和音が聞こえるようになっていた……。



『相変わらず、ブレないわね』

早月がマリコへ向けた言葉。
本当にそうだろうか……マリコには自信がない。
現に、美貴に画像を見せられてから、マリコの足元は覚束ない。
まるで『道』ではなく、吊り橋を渡っているような気さえする。


画面の中の土門と有雨子は、本当に幸せそうな笑顔を向けていた。
お似合いの夫婦だと思った。
そんな土門の笑顔を微笑ましいとさえ感じた。

でも、同時に気づいてしまった。

この頃。
今ではマリコの隣に並ぶあの『道』を。
歩んでいたのは………土門一人ではなかったのだ、ということに。


気を抜いたら、ガラガラと音をたてて崩れていきそうな『道』。
一人で歩いていくのは、もう限界なのかもしれない……。



マリコは自然と走り出していた。
土門の姿を求めて。

階段を小走りに駆け上り、いつも二人を繋ぐ扉を開いた。

そしてそこに、やはり土門はいた。


「土門さん!やっぱりここだったのね!」

マリコは走り寄る。
手すりにもたれたまま、土門がこちらに顔を向けた。


「……………榊」


何故だろう……。
名前を呼ばれて、マリコは足がすくんだ。

―――― この先には進めない。


すると、土門の腕が伸びてきた。

「土門……さん?」

ふいに囲われた体。

重なる心音から。
マリコは土門の胸の高鳴りを感じる。

背中に添えられた手のひらから。
土門の心の声が胸に響く。


『もういいだろうか?
平行線のままでなくても。
重なり合い、一つの『道』になっても。』


同じだ、マリコはそう思った。

もう…、一人きりでは歩けない、進めない。



「………榊」


もう一度名前を呼ばれ、マリコは気づいた。

なぜ、この先に進めないのか ――――― 。

――――― そこは分岐点。

どちらへ進むべきか……。
けれど、もうマリコは動かない。

もうすぐ現れるはずの土門そのひとを待って。

そして、二人で歩いていく。

これからは同じ、一つの『道』を。




fin.



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