『道』

『道』side.D




『道』とは、しばしば人生を表現する上で例えに用いられることがある。
『道を踏み外す』然り、『歩むべき道』然り。


そして土門はまさに今、人生という『道』の岐路に立っていた。
随分以前には伴侶とともに歩んできた『道』。
時には曲がりくねり、歩みが遅くなってしまったり。
ふいに交差した『道』に迷いこみ、行く先を見失ってしまいそうになったこともある。

けれど、そんなときは有雨子がいた。
彼女とならば、前に進むことができた。
その笑顔を支えに。

だが、その有雨子は自分を置いて別の男との『道』を選んだ。
そして、一人先に終着点へたどり着いてしまった。

遺された土門は、たった一人で先を目指すこととなった。
険しい『道』に出会うたび立ち止まり、いつしか土門の『道』は霧に閉ざされかけていた。




「土門さん!やっぱりここだったのね!」

マリコが心配げな顔で、屋上の手すりに寄りかかる土門へ走り寄ってくる。


「……………榊」

ぽつり。
その名を呟いたとき、土門は思い出した。
立ち止まりかけたあのころ、マリコに出会ったのだ。


あれから幾年月流れただろう……。
その間、土門とマリコは同じ方角へ進んできた。
同じ速度で。
でも決して交わることはなく、その『道』は2本の平行線のままだ。
それでも、急勾配な『道』は二人で助け合い乗り越えてきた。
狭い『道』ならば互いを気づかいながら……。



自分に向かってくるマリコを見て、土門は思った。


もういいだろうか?
平行線のままでなくても。
重なり合い、一つの『道』になっても。


有雨子はどう思うだろう。
土門は病室で最期に会ったときのことを思い出す。

――――― いいや。
もう有雨子には関係のない話だ。


では、榊はどうだろう?
ともに歩んでくれるだろうか……。



土門はマリコへ腕を伸ばした。
細い手を掴み、ぐいっと引き寄せる。

「土門……さん?」


伝わるだろうか、この胸の高鳴りが。
届くだろうか、自分の心の声が。


「………榊」

その名に想いの全てを込める。

マリコはうつ向いたまま、ぎゅっと土門の胸元のシャツを握りしめる。
そしてそっと頬を寄せた。



土門はようやく一歩を踏み出した。
しかし、真っ直ぐではなく、初めて角を曲がる。

――――― やがてたどり着く先にいるマリコそのひとと、同じ『道』を歩むために。




fin.




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