質量変化の法則





その翌朝。
土門が出勤すると、デスクに封筒が置かれていた。
宛先も差出人も書かれていない。
封を開けると、中から出てきたのは一枚の紙。


『何度忠告しても、無駄だと分かった』


書かれていたのはそれだけだ。

土門はすごい勢いで椅子から立ち上がる。
ガタン、と椅子が反対側のデスクにぶつかり、派手な音をたてた。

「土門さん!どうしたんですか?」

蒲原が目を丸くしている。

「蒲原、榊が危険だ。手を貸してくれ!」
「どういうことですか!?」

「詳しく説明している時間はない。榊を探せ!」
「探すといっても……」

「必ず署内にいるはずだ。お前は科捜研に行ってくれ。そこに榊がいなければ、所長に協力を仰いでくれ!」
「わかりました!」

深くはたずねず、蒲原は走り出した。

土門も走り出した。

いつもの場所へ。
自分とマリコを繋ぐ、あの場所へ。




「榊!」

バンッ!と扉を乱暴に開け、土門は屋上へ乗り込んだ。

「土門さん!!!」

マリコの切羽詰まった声が、柱の奥から聞こえた。

土門が柱の裏に回り込む。
土門の目に飛び込んできたのは、制服警官がマリコへ警棒をふり下ろそうとする瞬間だった。

土門は躊躇うことなく、男の側面に全力で体当たりした。
腕をふり上げていた男は、その勢いにバランスを崩した。
この期を逃さず、土門は素早く男の手首に手刀を打ち据える。
ゴトンという落下音が響き、男は警棒を落とした。

ちょうどそのとき、蒲原と、話を聞いた日野、宇佐見、呂太が駆けつけた。

「マリコくん!」
「「マリコさん!」」

宇佐見と呂太がマリコを安全な場所に移動させる。

「マリコさん、怪我はないですか?」
「大丈夫です」

しっかりと答えたマリコを横目で確認すると、土門は男の腕を背後に締め上げた。

「お前が手紙の送り主か!ようやく顔が拝めるな!」

土門は男の髪をつかんで、顔を晒した。

「「「「「「……………」」」」」」

その場の全員が注目する。

「誰か、こいつを知っていますか?」

科捜研のメンバーは誰もが首を横にふる。

「蒲原……」

呼ばれた蒲原も記憶にない顔だった。

「いえ、俺も知りません」

「じゃあ、こいつは……」

「あ!土門さん。この人の制服、偽物だよ。襟の大きさが少し違うもん。最近、ネットで出回っている安物だ!」

見れば、転がっている警棒も支給されるものとは違っていた。

「なにっ!?お前、警察官じゃないのか?」

男はだらしのない顔でただ笑っている。

「榊マリコぉ~!」

突然、男は暴れだす。

「土門さん、この男もしかして……」

慌てて土門に手を貸す蒲原は、男の様子を見て眉間に皺を寄せた。

「ああ、禁断症状だろう。すぐに尿検だな」
「俺が連れて行きます」
「頼む」

蒲原は、暫く大人しくしてもらおうと、尚も暴れる男の鳩尾に…一発ほどお見舞いしておいた。



「やれやれ、マリコくん。大丈夫かい?」

日野が座り込んだままのマリコに問いかける。

「すみません、大丈夫です」

そう答えるものの、やはり顔色は青白い。

「少し医務室で休んでおいたほうがよさそうだね」
「マリコさん、そうしてください」
「残りの鑑定はボクたちでやっておくよ。亜美さんにも手伝ってもらおーっと」

口々に言われ、マリコは弱り顔で思わず土門を見た。
その様子から、日野は土門へ声をかけた。

「土門さん、マリコくんをお願いできますか?」
「わかりました」

返事を聞くと、日野は「さあ、行こう」とみんなを促す。
その声を皮切りに、蒲原は三課へ、残りは科捜研へと戻って行った。



後に判明したことによると、男はやはり薬物の常用者だった。
無線技師の資格を持っており、これまではその関連の仕事を転々としていたらしい。
しかし昨年、何度目かの仕事もクビになり、今では盗撮、盗聴の常習犯として警察に追われる身となっていた。

そんな時、たまたま薬物依存と犯罪に関するマリコのインタビュー記事を目にしたのだという。
女としての興味と、警察への挑戦的な気持ちからマリコをターゲットに定めたのだと、自供した。

警官の制服に扮して現場に紛れ込み、盗聴、盗撮を行っていたという。
他にも深夜の科捜研に忍び込み、マリコの白衣に差し込まれたポールペンに盗聴機を、マリコの研究室に盗聴機、盗撮カメラを仕掛けた。
その言葉を聞くと、すぐに宇佐見と呂太がマリコの部屋を捜索する。
すると、供述通りに複数の機器が見つかった。

こうして、マリコが狙われた事件は無事に幕引きとなったのである。



そして、未だ緞帳の降りる気配のない事件も……。
ようやくフィナーレを迎えようとしていた。




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