質量変化の法則





マリコは玄関の前に立つと、鍵を差し込む。
回転させると、カチャリと軽い音が響いた。
鍵を引き抜き…。
マリコは手の中の小さな金属を見つめた。

――――― ずしり。

日を追う毎にその重さが増している気がする。
そして、ポケットに仕舞ったままのもう一つも…同じようにその存在が少しずつ大きくなっていた。


暗い部屋に入ると、マリコは床に座り込む。
あの日以来、帰宅後は何もする気が起きず、床は物が散乱している。

ようやく水を飲もうと立ち上がり、開けた冷蔵庫は空っぽだった。

「こんな部屋を見たら、きっと土門さんは怒るわね…」

マリコはひとり呟く。

「でも……。もう見られることもないわね」

寂しげな微笑みは涙とともに流れていく。


あのとき、泣いて喚けば土門は戻ってきてくれただろうか?

マリコはずっと考えていた。

戻ってきてくれるのなら…。
恥も外聞もなく、今の自分はいくらでも泣くだろう。
喚くだろう。

それほどにマリコは土門を求めていた。

倉橋と別れてから、ずっと一人で生きてきた。
大好きな仕事に、信頼できる仲間たち。
小うるさくても常に自分を案じてくれている両親。
それだけで十分だと思っていた。

でも……。

マリコは知ってしまったのだ。

自分が大切だと思っているそれらより、もっと根底から自分を支え、守ってくれる存在を。

それを失ってしまったら、もう自分が自分ではなくなる。
自分という『個』が消滅してしまう。


「土門さん…」

マリコはポケットの中身を取り出す。
銀色の小さな鍵は、土門から返されたものだ。

「どもん、さん……」

マリコは微かな土門の気配を求めて、その鍵を両手で握りしめる。

そして。

押し潰されそうな不安の中で、マリコは眠りに落ちた。




5/7ページ
スキ