質量変化の法則
翌日。
臨場要請に土門とマリコは現場で顔を合わせた。
「検死を頼む」
「分かったわ」
テキパキとご遺体の状況を確認し、周囲に的確な指示を出す。
その様子は、いつものマリコとなんら変わらない。
「……土門、さん」
マリコは遠慮がちに声をかけた。
「終わったか?」
「ええ。恐らく死後13時間程度ね。死因はこの首の様子から縊死だと思うわ。でも詳しいことは解剖の結果を待って」
「ご遺体は、洛北医大か?」
「ええ。手配をお願い。私はこのまま洛北医大へ向かうわ」
「分かった。……その、気を付けて行けよ」
「……ありがとう」
いつもなら『送る』その一言が。
もう言えない。
もう聞こえない。
二人はぎこちない雰囲気のまま、その場を離れた。
「マリコさん!」
白衣を着替えていたマリコに、蒲原が声をかけた。
「今から洛北医大ですよね?」
「ええ」
「俺、送ります。車を回してくるので待っていてください」
「あ、ありがとう」
蒲原は小走りで車へ向かいながら、先程のやり取りを思い返していた。
「土門さん、今からマリコさんと洛北医大ですか?」
「いや。俺は行かない」
「え?……そう、なんですか」
「……蒲原」
「はい?」
「このあと、暇か?」
「は?まあ、もうすぐ捜査会議なので、それまでは他の捜査員と情報交換するくらいです」
「そうか…………」
「あの、土門さん?」
じっと土門に見つめられ、蒲原は落ち着かない。
「何か?」
「いや。……そうか、暇なのか」
「?」
蒲原は首を傾げ……、『あっ!』と気づいた。
「俺、洛北医大へ行ってきます!」
「……頼むな」
「はい!」
蒲原はうすうす感づいていた。
どうも昨日から、二人はぎこちない雰囲気なのだ。
妙に距離を置いたり、会話が変に途切れがちだったり…。
絶対に何かある、そうは思うのだが、蒲原にそれを確かめるだけの勇気はなかった。
それに…。
二人とも尊敬する人物だからこそ、自分などが立ち入るべきではない。
蒲原は静観するポジションに徹することに決めた。