マリコと舞子





P.M. 1:15

二人で日替わり定食を堪能して店を出たとき、目の前をものすごいスピードでバイクが走り去っていった。
「一般道で何キロ出してやがる!」
土門が走り去った方角を睨み付ける。
しかし、今度はその逆方向からけたたましいほどの大音量で警報が鳴り出した。
「榊!」
「土門さん!」
二人は瞬時に駆け出した。


警報が鳴っているのは、大通り沿いのジュエリーショップだった。
音を聞き付けた近隣住民や、買い物客らが集まりだし、少し離れた場所から店内をのぞいている。
土門が警察手帳を示し店内へ足を踏みいれると、ショーケースのガラスは粉々に砕け、陳列されていたと思われる棚は空っぽだった。

「酷いな……。怪我人は?」
土門が周囲を見渡すと、ワイシャツの左腕を赤く染めた男性社員が呆然と立ち尽くしていた。
マリコはその男性のもとへ近づき、ふた言み言話すと、腕の傷の止血をはじめた。
そうこうしているうちに、サイレンの音が近づいてきた。
機捜の腕章をつけた数人の捜査員が店内へ入ってくる。
惨状に眉を潜め、店内を見回し、マリコに目をとめると、全員が息を飲む。

「主任…?」
「は、後ろや。あほんだら!」
ぬうと現れた金子刑事が、後輩の頭をぺしっと叩く。
「ねこさん、痛いですよ……」
「軟弱なや奴や!…それにしても、けったいなところで会いますなぁ」
「昼飯を済ませて店を出たら、速度超過のバイクを見かけたんですよ。その直後に警報が聞こえたので駆けつけてみたら、この有り様で……」
「では、犯人とおぼしき逃走バイクを目撃したのですね?」
金子刑事に続いて、舞子が二人のもとへやって来た。
「はい、見ました」
マリコがしっかりとうなずく。
「バイクの車体は黒にグリーンのライン。ナンバーは『○○-◇◇』でした」
土門は先ほど書き留めておいたメモを見ながら答える。
「運転手はフルフェイスのメットをかぶっていたので、顔はわかりませんでしたが、グレーのパーカーにデニム。特徴的だったのは、紫色のスニーカーでしょうか」
そしてマリコも記憶している限りの情報を伝える。

「………」
「何か?」
「いや、さすがに捜一の方だなと思いまして。目撃者がいつもお二人みたいな人だと、こっちも楽なんですけどね……」
少し前に二人の素性を聞いた佐藤刑事は、感心したようにメモを取る。
「何言うとんのや!刑事が楽してどないするんや…まったく。主任、すぐに手配かけますわ」
「ええ。お願い」
舞子はみなに指示を与えると、二人に向き直る。
「お二人とも、ご協力感謝します。もうお帰りいただいて結構ですが、連絡先だけ教えていただけますか?」
マリコと土門はそれぞれ名刺を渡した。
「では、何かありましたらご連絡させていただきます」
「わかりました。榊、行くぞ」
「ええ。沢村刑事、気をつけてくださいね」
マリコの言葉に、舞子は初めて口元を綻ばせた。
そしてマリコと土門は最寄り駅へと足を向けた。




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