マリコと舞子
A.M. 11:00
マリコを研究所へ送り届けた後、土門は目黒中央署を訪れ、久々に同期と旧交を温めていた。
「土門、昼一緒にどうだ?」
「ちょっと待ってくれ」
ブルッと一度だけ震えたスマホに気づき、確認するとマリコからのLINEだった。
『早めに終わったから、そっちへ向かうわ』
『迎えに行くから待ってろ』
『無理ね。もう電車の中よ』
「ちっ」
思わず、土門は舌打ちする。
「相変わらず無茶ばっかりしやがって…」
「………」
同期が可笑しそうに土門を見ている。
「なんだ?」
「いや、お前に無茶呼ばわりされるなんて、いったいどんな
男じゃないんだが…と、土門は苦笑するしかない。
『着いたら連絡しろ。怪我人なのを忘れるなよ!』
その返信を見て『土門さんたら大袈裟ね』と思いながら、マリコは降車駅までの数を数えていた。
目黒中央署に着くと、突然後ろからおい!と声をかけられた。
振り返ったマリコへ、見ず知らずの男が大股で近づいてくる
「おい!今日こそはこの前の返事を聞かせてもらうぞ!」
「え?あの…」
「榊!」
丁度マリコを迎えに出てきた土門は、見知らぬ男に絡まれている様子を目にして、慌てて駆け寄る。
そして二人の間に割って入ると、マリコを背に庇う。
相手の男は肩にショルダーバッグをかけ、抜け目のない目付きが印象的だ。
土門はこの手の人間をよく知っている。
「ブン屋が何のようだ?」
『ブン屋』と呼ばれ、男のほうも相手の素性に気づいた。
「…あんた、知らない顔だな?ここの
「いや、京都府警だ」
「京都!?」
ブン屋…土居がすっとんきょうな声をあげたとき、一台のスカイラインが敷地内へ入ってきた。
奥の駐車スペースに停車すると、二人の人物が降り立つ。
「腹、減りましたね。今日の当番は誰や?」
ガタイのいい男の後ろから、ほっそりと小柄なシルエットが見え隠れする。
「土居さん?」
呼ばれた土居が振り向くと、マリコと瓜二つの女性が姿を現した。
「なんだ!?」
土居は二人の女性を交互に見比べる。
一瞬迷ったようだが、ねこ、こと、金子刑事とともにいる方へたずねた。
「あんたたち、知り合いか?」
「え?」
言われた女性が入口へ目を向けると、見知らぬ男性の背後から顔を出す、自分とそっくりの人物と目があった。
見つめ合うこと、数秒……。
「あの、あなた方は?」
口を開こうとしたマリコより先に、土門が手帳を提示した。
「京都府警捜査一課の土門です。こちらは京都府警科学捜査研究所の研究員です」
「榊マリコといいます」
マリコは丁寧に頭を下げた。
「京都府警の方ですか!?私は機動捜査隊の沢村舞子です」
「自分は沢村主任の部下で金子、いいます」
勢い、土居も名乗ることになった
「東亜新聞の土居だ。その……人違いだったとはいえ、驚かせて申し訳ない」
土居は頭へ手をやりながら、マリコへ謝罪した。
「しっかし、よう似てますなあ…」
「ねこさん、お昼食べる時間なくなるわよ」
「そうやった!すんません、失礼します」
金子刑事はペコリと会釈すると、颯爽と歩く上司の後を追った。
「おい!俺も話が……!」
土居が慌てて大声で叫ぶが、舞子が戻ってくることはなかった。
「相変わらずな女だ!」
ブツブツ呟きながら、土居は踵を返した。
「とうとう三人目ね…」
「ああ。さすがにこれで打ち止めだろうな」
マリコと土門は顔を見合わせ、苦笑する。
「榊、昼飯は?」
「まだよ」
「さっき、上手い定食屋を教えてもらった。食ってから帰るか?」
「そうね……」
マリコはじーっと土門を見つめる。
「あー、分かった、分かった。奢ってやる!」
「違うわよ!今日は付き合ってくれたお礼に、私がご馳走するわ!」
「………」
「なに?」
「止めておけ。大雨で新幹線が停まったらどうする?」
「ちょっと、何よそれー!」
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