One day
【 one day 】
強い願望や意思が込められた「未来のいつか」を表す。
「榊!」
土門は小さく、けれどハッキリとその名を呼ぶ。
尊敬と情熱をこめ、優しさと愛しさに満ちた声で。
振り向く横顔は可憐だ。
これまで何度その名を呼んだだろう?
そしてこれからは何度呼べるのだろう?
「先に行く。待っているからな」
去り際、土門はマリコへ寄り添う。
本当は思うさま堪能したいと思ったが、メイクが崩れないようにそっと合わせるだけにした。
それは今夜のお楽しみだ。
マリコはすでに感無量といった様子で、無言のまま頷く。
部屋を出る直前、歩みを止めた土門は最後にもう一度振り返る。
「榊。きれい、だ……」
「土門…さん」
これまで面と向かって言われることのなかった言葉に、マリコは頬を桃色に染める。
「さ、三国一だな!」
思わずこぼれた本音を誤魔化そうと、土門はおどける。
「…………ぷっ」
『昭和の男にもほどがある』と、マリコは思わず吹き出した。
「やっぱり、それがいいな」
「え?」
「今日は笑っていろ。泣くのは…、俺の腕の中だけにしておけ!」
マリコの返事も聞かず、土門は今度こそ部屋を出ていった。
「柄にも無いことを言っちまったな……」
土門は羞恥心から頭に手をやり、早足で歩き続ける。
やがて、立ち止まる。
ふり仰げば、視界はクリアなblue。
ただ一色。
それは、いつも屋上から二人で見上げる空となんら変わらない。
これまで紡いできた過去も。
これから歩んでいく未来も……。
マリコと二人なら。
きっと、この青空のように何処までも澄み渡っていくだろう。
fin.
◎三国一とは?
日本・中国・インドの三国で最もすぐれていること。世界一。
「三国一の花嫁」などと使う。
…ただし、最近では年配の方が使うことが多いようです(^^;)
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