シーサイドパニック
土門は海岸そばの民宿へと足を向ける。
着替えと休憩のために、皆で一室を借りておいたのだ。
その部屋へマリコを連れ込むと、自分は座椅子にどかっと腰を据え、勢いそのままにマリコの体を自分の膝の上に乗せ上げた。
「ど、どもんさん!」
驚きに声をあげるマリコを無視して、土門は少しファスナーの下がったマリコの胸元をぐいっと開く。
そして、衿ぐりとの境、際どい場所に吸い付いた。
皮膚に軽く噛みつき、舌でゆっくりと撫で回す。
「うっ……んん!」
顎を逸らして声を漏らすマリコを横目に、反対にも同じことを繰り返す。
そして、出来映えに満足すると、今度はマリコを畳に押し倒した。
「いたっ!」
背中をしたたか打ち付けて、マリコは悲鳴をあげる。
「誰か来たらどうするの!?」
マリコは入り口を気にしている。
しかし土門は答えず、マリコの左足に手をかけた。
先程、日焼け止めを塗った太ももより少し上、ショートパンツの裾をずり上げ、その真っ白な内腿に今度は顔を埋めた。
「あっ、やんっ!」
今度は右足に。
「やだぁ…。はぁっ……」
恥ずかしさに顔を覆ったマリコの手を引き、土門はマリコを起き上がらせる。
「榊、鏡を見てみろ」
マリコは入口の姿見の前に立つ。
左右の鎖骨の下と、左の乳房の膨らみの上。
そして両足の内腿に、紅い痕がくっきりと浮かんでいた。
「やだっ!何でこんなところ……見えちゃうじゃない!?」
「そうだな」
「どもん、さん?」
土門の声は明らかに低く、マリコはビクンと肩を揺らした。
「そのままの格好だと見えるだろうな?榊、どうする?」
「………着替えれば、いいの?」
「お前が決めればいい」
「なんで?」
「ん?」
「なんでそんなに怒ってるの?私、土門さんを怒らせるようなこと、何かした?」
マリコはしゅんと肩を落とし、瞳を揺らす。
土門は自分のしくじりを悟った。
確かにマリコには無防備なところがあるが(いや、ありすぎるか?)、今日に関しては非があるのは相手の方だ。
土門がもっと気をつけていれば防げたことかもしれないし、何よりマリコにそんな顔をさせたかったわけではない。
皆で楽しんで、弾けるように笑うマリコを側で見ていたかっただけなのに。
土門は、マリコの手をそっと握る。
滑らかな手の甲を親指でなぞる。
「すまん。お前のせいじゃない。怒ったりして悪かった。俺が……勝手にムカついただけだ」
「どういうこと?」
土門はマリコをちらりと見る。
『はぁー』とため息を吐き出すと、罪滅ぼしも兼ねて白状することにした。
「葉山のことはもちろんだが……。それ以前から他の男がお前を見ていただろう?」
「え?そうなの?いつ??」
「…………」
がっくりと土門は項垂れる。
「土門さん、それで?」
「ん?」
「私を見ている人がいたから、何なの?」
わざとなのか、天然なのか……敏腕刑事の土門でさえ判別不能だ。
「だから、そういう輩の視線を集めるような格好は……気に食わん!ふんっ!」
ムスッとした土門の顔を見て、マリコはふふっと笑う。
何故かご機嫌なマリコは手を伸ばし、土門の首にするりと腕を回した。
「ヘンな土門さん!」
「はぁ!?」
「だって、私は土門さんだけのモノなのに……」
「……………」
この場でマリコを押し倒さなかった理性を褒めてほしい。
「おいっ!」
「なあに?」
「今夜、ナイトプールへ行くか?」
「えっ?今夜!?」
「せっかく買った水着だ。コホン…。見たくないと言えば嘘になるしな」
「うん。……行きたい」
「よし!約束だぞ?」
土門はきっちり念を押す。
「ええ。分かったわ」
「…………」
“よっしゃ!”と土門は心の中でガッツポーズを決める。
その後、土門はしばらくマリコの柔らかな唇を堪能し、まろやかな曲線をなぞり……『ダメっ!』とつねられて、諦めた。
でも、今夜。
そんなこととは知らず……。
マリコは土門の自宅のナイトプールで、甘くて、ちょっぴり意地悪なスパイスの効いた夜を過ごすことになるのだ。
真夏の夜の月は、いつもより刺激的な光を注いでいる。
その欠片はきっと二人の元へも届くだろう。
――――― そう。
夏の恋はいつもより、少しだけ……大胆に♡
fin.