シーサイドパニック
「榊、しゃがめ!」
耳に馴染んだ声に体が勝手に反応した。
目を閉じたまま、マリコは素早くしゃがみこむ。
と同時に、ヒュッと何かが風を切る音が聞こえた。
すると『いてぇ!』という悲鳴と、パンっという乾いた音が響いた。
マリコが目を開けると、額を押さえて呻く葉山と、その足もとには『はやま ゆきと』と書かれたプラスチックの水鉄砲が転がっていた。
「くそっ!だれ…!?」
悪態を付いて振り返ろうとした葉山の背中を、どん!と土門が突いた。
バランスを崩しよろめいた葉山は、さっきまでマリコが拘束されていた壁にぶつかる。
そのまま土門は葉山を壁に押し付けた。
逃げることができないように、ぎりぎりと腕を締め上げる。
「つぅ!」
柚斗からは見えないようにしていたつもりだが、その場のただならぬ雰囲気と、父親の苦しげな声に何かを感じ取ったのだろう。
ぐすぐすとすすり泣きをはじめた。
「パパぁ……ぐすっ」
「土門さん!」
マリコは土門に呼びかけると、少し離れたところで待っている柚斗に駆け寄った。
「柚斗くん、ごめんね。何でもないの。大丈夫よ」
マリコは柚斗の頭を撫でると、抱きしめた。
「おいっ!子どもの前で醜態はさらしたくないだろう?二度と榊に近づくな!もうこんなことは止めろ!!さもなきゃ……『暴行罪』でしょっぴくぞ?」
最後の一言に、葉山の顔色が変わる。
「なっ!あんた、もしかして……」
「俺の名前は土門、土門薫だ。よく覚えておけ!どこかの署で名前を出せば通じるだろう」
「くそっ!じゃあ、あの女も………」
「榊は、科捜研の女だ」
土門のセリフを聞くと葉山は抵抗をやめ、ずるずるとその場に座り込んだ。
「パパ!」
柚斗はマリコの腕をすり抜け、一目散に父親のもとへ走る。
葉山はばつの悪い顔で、それでも柚斗を抱き止めた。
「パパ!パパ!!」
「柚斗。……ごめんな」
柚斗はぎゅっと小さな手で、懸命に父親にしがみついた。