シーサイドパニック
土門がトイレから戻ると、マリコが見知らぬ男と談笑している光景が目に飛び込んできた。
――――― 誰だ?
土門は砂に足を取られながらも、駆け戻る。
「榊!」
「あ、土門さん。お帰りなさい」
「ん。……こちらは?」
「葉山さんとおっしゃるの。さっき、息子さんが転んでしまって…。手当てをしてあげていたのよ」
確かに視線を落とせば、足もとで小さな男の子がお菓子を頬張っていた。
「榊さんに大変お世話になってしまって。そうだ!何かお礼を。海の家で飲み物でもいかがですか?」
「そんな…。お気遣いいただくほどのことでは……」
「それでは私の気持ちが収まりません。ええと、土門さんとおっしゃいましたか?あなたもいかがですか?」
「いえ、自分は……」
「まあ、まあ。いいじゃないですか!榊さん、何がいいか…一緒に見に行きませんか?」
「でも柚斗くんは………」
「おじさん。………あそぼ?」
柚斗はいつの間にか土門の足にまとわりついていた。
「あら?じゃあ、土門さん、柚斗くんと遊んでいてくれる?土門さんの分も選んでくるわ」
「お、おいっ!」
土門の制止も気づかず、マリコは葉山と並んで歩きだす。
葉山の腕がマリコの腰に触れるか触れないかの位置を行き来していることが、土門には気が気ではない。
しかし、自分の足には柚斗ががっちりとしがみついている。
「おい、小僧。お父さんと一緒に行かなくていいのか?」
「……………」
柚斗は泣きそうな顔をしている。
「どうした?」
土門は柚斗の前にしゃがみこみ、視線をあわせ聞き返した。
「パパが……」
「ん?」
「パパが、邪魔しちゃダメだって……」
「なにっ!?」
土門の顔色が変わる。
一瞬考え込んだ土門は、柚斗を抱き上げた。
「小僧、オシッコ行きたくないか?」
「え?」
「オシッコだったら、パパに付いていっても怒られないだろう?漏らしたら大変だからな!?」
「あ…。うんっ!ぼく、オシッコ行く!!」
「よし!しっかりつかまってろよ……走るぞ!」
土門は柚斗を抱え、全速力でトイレに向かう…ふりをして、手前の海の家を目指した。