シーサイドパニック





マリコは、ややばつの悪い顔で土門を見送る。
そして波打ち際ではしゃぐメンバー達を眺めていると、『ととと!』と軽い足音が聞こえた。
マリコはそちらへ顔を向ける。
するとまさに今、小さな男の子が顔から砂浜へ突っ伏したところだった。

「うっ……」
口を歪ませた男の子は、おでこを押さえたまま動かない。

「大丈夫?ぼく??」
マリコは駆け寄り、その額をのぞきこんだ。

おでこの中央には大きな擦過傷が出来、血が滲んでいた。

「大変!確か救急セットを持ってきたはずだわ…。ねえ、ぼく、傷の手当てをしましょう。お父さんとお母さんは?」

男の子は無言で後ろを指差す。

マリコが男の子の背後に目を向けると、男性が慌てた様子でこちらへ向かい走ってきた。

「すみませーん!」

二人のもとに辿り着いた男性は、男の子を抱き上げマリコへ頭を下げる。

「すみません!何かご迷惑を……?」
「いいえ!転んで怪我をしてしまったようなので、もし良かったら手当てしましょうか?救急セットを持っているので」
「でも、ご迷惑では?」
「とんでもない。早めに傷を洗い流したほうがいいですよ!夏に傷口が化膿したら大変です!」
「そうですか?……すみません、お願いします」

マリコは二人をパラソルに案内すると、男の子の傷口を真水で洗い流した。
染みるのか、ずっと男の子は唇を噛み締めている。
マリコは救急セットから絆創膏を取り出すと、ペタリと額に張り付けた。

「はい、これでよし。あとはおうちに帰ったら、また取り換えてくださいね」
「ありがとうございます」

父親とおぼしき男性は、マリコに何度もお辞儀する。

『気にしないでください』と遠慮しあう二人を他所に、男の子の視線は呂太のリュックからのぞくお菓子にくぎづけだった。

「お菓子あるわよ。食べる?」
マリコはクーラーボックスから、ジュースやチョコレートなどを取り出すと、男の子の前に並べた。
男の子は目をキラキラさせて、お気に入りのお菓子を選ぶ。

「こら、柚斗ゆづと!お行儀悪いぞ!?」
「柚斗くんて言うの?私は榊マリコよ。よろしくね」
「榊さん、ですか。私は柚斗の父親の葉山と申します」

互いに名乗ったあとは、自然と『どこから来たのか』、『お仕事は?』といった話で盛り上がり始めた。

「柚斗くん、お母さんは?」
「いや、お恥ずかしながら。私はバツイチでして…」
「あら?私も同じです」
「えっ!?榊さんも……」
「はい。ところで葉山さん、大学ではどんな研究をされているんですか?」

マリコは興味津々の眼差しを葉山に向ける。
先程、葉山は大学で教鞭を取っているとマリコに話したのだ。

「ええ、私の専門は……」

葉山の話す小難しい漢字と、舌を噛みそうなカタカナ用語は作者にはまったく理解不能なので、ここは割愛しておきます…ご理解くださいね(笑)



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