覚悟しろよ?
定時になりマリコが帰り支度をしているとスマホが振動する。
『駐車場で待っている。』と、土門から手短なメッセージが入っていた。
マリコはスマホを見ながら「今夜は約束していたかしら?」と首を傾げつつ『分かったわ。すぐ行く。』と返事を送り足早に駐車場へ向かった。
駐車場に着くと土門が愛車に寄りかかりながら腕を組んで立っていた。
「土門さ~ん、おまたせ。今夜って何か約束して…きゃっ!」
小走りで近づいてきたマリコを、土門は無言で抱き寄せた。
「…あ、あの…土門さん?」
土門の胸にスッポリ収まったマリコがゆっくり顔を上げ土門を見つめた。
土門は眉間にシワを寄せ
「…やはりちゃんと伝わっていないようだな?」
「えっ?」
「昼に屋上で言っただろ?"覚悟しろよ?"と…
事件もないんだ…今夜このままお前を帰すワケないだろ?」
土門はマリコの顎をグイッと上げると軽く唇を重ねた。
「ちょ、ちょっと土門さん!こんな所で!だ、誰かに見られたら・・・」
マリコは頬を赤く染めキョロキョロしながら土門から離れようとするも、土門はマリコを抱き寄せる腕に力を入れそれを阻止する。
「土門さん!離しっ…」
土門は自分の胸の中から逃げようとするマリコの耳元に顔を近づけると
「じゃあ続きは…俺の家でいいな?」と囁いた。
土門の言葉に更にマリコは顔を赤くした。
「…どうせYesって言わないと離してくれないんでしょ?」
土門はニヤリと
「分かっているなら早く車に乗れ!」
土門は助手席のドアを開けるとマリコに乗るように促す。
観念したマリコはゆっくりと助手席に乗り込む。
「分かったわ。でも…先食事ね!お腹空いたわ!」
「分かっている!腹ごしらえしないと思う存分デキないもんな?」
土門はニヤニヤしながら車を発進させた。
「・・・バカ。」
マリコは頬を赤く染めながらボソッと呟いた。
~~~~~~~~~~~
「…榊。」
土門の家に着くと、
土門はマリコの腰をグイッと自分の方へ引き寄せマリコの髪をかきあげながら頬に優しく手を添えた。
マリコはキラキラと潤んだ瞳で土門を見つめる。
その妖艶な瞳が土門の心をトロリとさせるほど狂おしく突き刺さる。
「・・・土門さん。」
マリコに名前を呼ばれると、土門は吸い寄せられるようにマリコに唇を重ねた。
角度を変え貪るようにマリコの唇を求める。
「んっ…はぁ…んん…」
マリコから甘い吐息が漏れ出すと、土門は舌を絡ませた。
「んっ!はぁ!んんんっ!」
マリコは土門の首に腕を回し一生懸命土門に応えた。
舌を絡ませ合いながら土門はマリコの身体のラインを手で撫で回す。
「んっ!んっ!あっ!」
土門の手の動きに合わせマリコは身体をビクビク震わせる。
土門は唇を離すとマリコの首筋に舌を這わす。
「あっ…ども…んさ…ん…」
「はぁ!さか…き…」
土門とマリコは抱き合いながらベッドのシーツに溶け合っていく・・・
髪を優しく撫でられる感触に、マリコは目を開けた。
土門と愛し合った末、意識が遠のいていたようだ。
「ん…土門さん…」
マリコは土門の腕枕にすっぽり収まる形で抱かれていた。
「気がついたか?」
土門はマリコの髪をかきあげ顔を覗き込む。
かきあげた髪が耳元で揺れ擽ったさを覚える。
「…土門さんって髪の毛撫でるの好きなの?」
「んっ…?まあ好きって言えば好きだな。サラサラしてて触っていて和む。」
「ふ~ん・・・」
マリコは瑞希の流れるような長い髪の毛を思い出した。
府警でいつになく楽しそうに笑い、瑞希に糸屑を取って貰い照れたように後頭部に手を当て、苦笑している土門の姿が鮮明に甦る・・・
「私も髪の毛伸ばそうかな…」
マリコは髪の毛を触りながらボソッと小声で呟く。
「何だ?よく分からんが、髪を伸ばしたいのか?お前はその長さが似合ってると思うぞ?」
土門はマリコの髪をゆっくり撫でる。
マリコは口を尖らせ
「…だって、男の人って女性の長いサラサラ髪やうなじが好きなんでしょ?私みたいに短いと髪アップにしてうなじ見せるって難しいし…」
「まあ、それが好きな男はそれなりに多いな…
お前は…他のヤツに…自分を見てほしいのか?」
土門は不機嫌そうに目を細めた。
「他の
マリコが真っ直ぐな視線を土門に送る 。
「何故そう思う?俺がいつそんな事言った?」
土門が更に険しい表情になる。
「だって…府警の受付付近で楽しそうに瑞希さんと話していたじゃない…糸屑取って貰って土門さんもデレデレして嬉しそうだったし…
あの時の彼女…髪の毛アップにしてて…女の私が見てもうなじが色っぽいって思ったわ…」
マリコはあの時の様子を脳裏に浮かべながら土門の胸に頬を擦り寄せ話す。
「あぁ…話はしてたが…あの時の彼女の髪型なんて覚えてないぞ?アップにしてたか?」
土門は頭を掻きながら記憶を思い起こす。
「えっ?覚えていないの?何で!?」
マリコは驚きグイグイ自分の顔を土門の顔に近づける。
「な…何でと言われても…会った女全員の髪型を覚えているなんて逆に不可能だろう?興味のある女以外は覚えていない。男なんてそんなモノだぞ?」
「…だって…瑞希さんの話してる時の土門さん…とても楽しそうだったのに…」
土門は眉をピクッと上げ、徐々に口元が緩んでいく。
「何だ、お前…そんな些細な事で嫉妬していたのか?ん?」
「…些細な事じゃないわ…
土門さんがあんな楽しそうに笑うなんて…ないじゃない……」
マリコはそう言いながら土門の胸に顔を伏せた。
『くくくっ…コイツがこんなに嫉妬するなんて初めてじゃないか?』
土門はマリコを抱きしめるとクルリと身体を反転させマリコに覆い被さった。
「きゃっ!ど、土門さ…ん?」
マリコは急に視界が変わり目をパチクリさせ呆然としている。
土門は微笑みながらマリコの前髪をかきあげ唇を親指でゆっくりなぞる。
「土門さん?」
「俺は…別に髪の長さなんて関係ないと思うぞ?俺はお前のこの髪が…お前だから髪を撫でるのが好きなんだ。」
土門は両手でマリコの髪をぐしゃぐしゃと揉みくちゃにすると唇を重ねた。
「ん…はぁ…本当に…?」
唇を離すとマリコは上目遣いで土門に訴えた。
「あぁ…本当だ。」
土門は微笑むとゆっくりマリコの頭を撫でる。
「お前は…もう少し自分の感情を表に出してもいいんじゃないか?」
「えっ?」
「もっと自分が思っている事を言葉にして、俺にぶつければいい。
仕事中でも…プライベートでも…何かあったらいつでも俺の所に来い!いつでも俺がお前を受け止めてやる!なっ?」
「…土門さん…」
マリコの瞳が涙でキラキラと輝く。
二人は見つめ合うと再び唇を重ねた・・・
「!!?ちょ、ちょっと!土門さん!?」
マリコの足に硬いモノが当たり急に焦り出す。
「ん?急にどうした?」
土門はニヤニヤしながらマリコが逃げられないように腕に力を入れた。
「…だって…当たってる!///」
マリコは顔を赤くして訴えた。
土門は口角を上げ
「ん?裸でベッドにいるんだ。別におかしい事じゃないだろ?」
「だって…さっきシたのに…また?」
「お前が不安がっているからな!」
「・・・?」
「昼に言ったろ?俺も嫉妬はすると…
そしてその時は他の“誰も”、“何も”、目に入らないようにしてやる…とも言った。」
「…そうね。覚えているわ。」
「それは俺が嫉妬している時だけじゃなく、お前が嫉妬して不安になっている時も他の“誰も”、“何も”、目に入らないように…俺しか見えないようにしてやる…」
土門は不敵に笑う。
「えっ…と…土門さん?」
マリコの目が泳ぎ出す・・・
「…榊、覚悟しろよ?」
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