覚悟しろよ?
数日後、抱えていた事件がようやく無事に解決した。
マリコも、久しぶりに早めに帰宅しようと帰り支度を始めたところで、スマホが震えた。
『お疲れ飯に行かないか?』
画面を見て、くすりとマリコは笑う。
『いいわよ』
そう返信すると、駐車場で待っている、と続けて返ってきた。
土門と二人で過ごすのはいつぶりだろう?
マリコは、はたと考え、駐車場へ向かう前に化粧室へ寄った。
簡単にメイクを直し、普段よりも少しだけ赤みの強いグロスを乗せた。
お気に入りのフレグランスを耳の後ろに刷り込むと、最後にもう一度鏡でチェックする。
そこには、これからの時間を楽しみにしている自分の顔が映っている。
二人で食事をして、少し川縁を散歩して……。
そのあと、今夜はどこへ向かうのだろう?
マリコがそんな風に考えていることを、土門は知っているのだろうか……?
様々な思考に翻弄されながら、マリコは駐車場へ急いだ。
土門の姿はすぐに見つかった。
なぜなら……………。
土門は、泣きじゃくる瑞希を抱き止めていたからだ。
落ち着かせようとしているのだろう、土門の手のひらが彼女の背をポンポンと叩く。
すると、瑞希は土門の胸の当たりをぎゅっと掴み、さらに頬を寄せた。
「…………」
何があったのかは分からない。
マリコの立っている場所からは瑞希の嗚咽しか聞こえない。
マリコは土門を信じている。
それは揺るぎのない事実だ。
それでも、今この場所に自分がいることが似つかわしくないことは分かった。
何より、もう足が言うことを聞かず、先には進めない。
マリコは振り返ることなく、来た道を戻って行く。
――――― 土門さん……。
暗く重い感情が少しずつ……、マリコの心に積もっていった。