「おい、支度できたか？」

土門は艶のある濃紺のスーツに薄いブルーのワイシャツを着用し、ダークグレーのタイを絞めている。
ジャケットの胸ポケットからは、落ち着いた色味の紫のチーフがのぞいている。

「ええ。まぁ……」

そういって更衣室から出てきたマリコは紫のグラデーションが目を惹くワンピースを見事に着こなしている。
高めのパンプスが足首の美しさを際立たせていた。

「どう…かしら？」
「…………」
「土門さん？」
「…………」
「馬子にも衣装、かしら？」

ふふふ、とマリコは笑う。
それに合わせて、スカートの裾が小さく揺れる。

土門は話を逸らすために、廊下を歩き始めた。
それにマリコも続く。

「そ、それにしても！何でこんな格好しなきゃならんのだ？」
「それは、管理人さんからお願いされたんだもの……」
「ちっ！あいつ、何考えてやがる……」

「あ、それと。土門さんはこれも持って！」
「はっ？？？」

手渡されたのはバラの花束。
二人は立ち止まる。

そして。

「さあ、準備はできたわね……。土門さん！」

「ああ。（コホン）ええ…、本日はお日柄もよく……」
結婚式じゃないのよ、とマリコが土門を突っつく。

「分かってる！いつも当サイトの管理人が大変お世話になっており、感謝しています…」
おい！、と土門はマリコへ続きを促す。

「管理人さんから、心ばかりのお礼とお祝いをこめて……土門さん、せーの！」


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『読者さま、Happy birthday！(*≧∀≦*)』

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二人は笑顔で、大輪の花束を差し出した。



「さて、戻るか？」

管理人からの依頼を終えた二人は、更衣室へ戻るために来た道を引き返す。
土門はわざわざマリコの背後に立った。

「土門さん？狭くないし、隣に並んだら？」
「いいんだ。あまり見せびらかしたくない」
「？」
「よく似合ってるからな。できるなら独り占めしたいくらいだ」

片方の眉を持ち上げる見慣れた表情に、マリコは土門の言わんとしている意図を汲み取り、ふわりと微笑む。

「他に見せる予定はないわ……」

『貴方だけよ…』と変換した土門はマリコの髪に触れる。
そっとかきあげると、形のいい耳がのぞく。
その耳の裏に隠された小さな紅い花弁は、昨夜土門が付けたものだ。
まだ鮮やかに残るその印をそっとなぞると、土門は満足気に目を細めた。

やがて男性用、女性用と左右に別れる廊下の岐路で立ち止まり、土門はマリコの肩に触れた。

『なあに？』と振り向くその一瞬に。

掠め取った唇は、この後を予感してか……小さく震えていた。




fin.