居場所
「藤倉部長に聞いた。アメリカに誘われたそうだな?」
マリコと並び、尋ねる土門の声は、まるでいつもの「飯、行くか?」と同じように気軽だった。
「……ええ」
「何年だ?」
「えっ?」
「何年帰って来られないんだ?」
「5年と言われたわ」
「5年か………」
「長い……わよね」
マリコは土門をちらりと見上げた。
「そうか?」
土門はマリコの視線に気づきながら、あえて視線を合わせようとはしない。
「だって、5年よ!?」
マリコの方が、焦れて声を荒げた。
「俺たちが歩んできた時間に比べたら、遥かに短いだろう?」
「……………」
「5年失ったら……。また5年、一緒に歩いていけばいいだろう?」
土門の声色は変わらず、視線は眼下の街並みに注がれたままだ。
「土門さん……」
「お前の好きなようにしろ。俺は振り回されるのも、待たされるのも、慣れてるからな」
そう言う一瞬だけ、土門は苦い表情で笑った。
「……土門さん、たら」
マリコは土門の腕をぎゅっと掴むと、俯き肩を震わせる。
土門は反対の手を伸ばし、マリコの肩に触れる…直前でその手を戻した。
科捜研へ戻るマリコを送り出した後、一人屋上に残った土門は、再び街並みを見つめていた。
いや、顔を向けているというだけで、その瞳には何も映ってはいない。
マリコにはああ言ったものの、やはり5年は長い。
危険は格段に減るだろうが、これまでのように影からサポートすることはできなくなる。
辛いとき、苦しんでいるとき、手を差し伸べることができない。
それどころか、マリコは他の誰かの手を頼るかもしれない……。
「情けないな……」
土門は自嘲する。
こんなにも手放したくないなんて。
こんなにも行かせたくないなんて。
土門は空へと手を伸ばした。
しかし、その手のひらは
――――― 何一つ、掴み取ることはできなかった……。