居場所
新たな事件に追われ、気づけばマリコが居なくなってから2週間以上が過ぎていた。
土門は屋上で一人、空を見上げていた。
「今ごろ、あいつは空の向こうか……」
「誰が空の向こうなの?」
背後から聞こえた声と足音に、土門の背中が跳ね上がった。
夢かもしれない。
幻かもしれない。
それでも……。
土門はゆっくりと振り返った。
そこには、風にさらわれる髪を押さえ、白衣の裾をはためかせる彼女が立っていた。
「ビックリした?」
「……………」
目を見開いた土門は黙ったままだ。
「実はね…、もう一人アシスタントが見つかったんですって……」
あの日、マリコは清水に提案したのだ。
もう一人、アシスタントを探して欲しいと。
そして自分の代わりが決まるまで、清水の元で手伝う約束をした。
マリコの自分勝手な条件を聞き、当然清水は理由をたずねた。
それに対して、マリコは。
『自分が居るべき場所が別にあることに……ようやく気づいたんです』
そう答えたのだ。
この時のマリコの瞳は、今はここにいない誰かを想い、慈しむような色をたたえていた。
清水はそれが意味することをすぐに理解した。
天才は何でもお見通しだ。
かつてとは随分違う後輩の様子に驚きつつも、彼は自分にはない、そんなマリコの人間らしい部分を羨ましく思った。
そして、それは自分の研究よりも大切にするべきものだと判断したのだ。
『二人の未来に!』乾杯のそのエールがマリコに届いていたかは……甚だ怪しいものではあったが。
『私、用無しになっちゃったわ』マリコは肩を竦めながら苦笑する。
そして、土門の正面に立った。
「土門さん……。私、戻って来たわ」