居場所
それからというもの、マリコは常にどこか上の空といった様子が続いた。
鑑定ミスをするわけでも、ぼんやりと物思いに耽るわけでもない。
それでもメンバー全員が「マリコがおかしい」と感じていた。
何より、屋上への足があきらかに遠のいている。
だからといって土門と喧嘩をしている様子もない。
『はて…?』誰もが口に出さずとも怪しみ続けていた。
そして、そんなときに誰よりも頼りになるのが、この人である。
「まいど~。今日の差し入れは…………ええ!?」
早月は手に紙袋を提げたまま、亜美と呂太に拉致された。
「なるほど……。で、あたしにその原因を探れ、と?」
二人は壊れたおもちゃのように、こくこく頷く。
「…………」
早月は暫く考え込んでいるのか、腕を組み難しい表情を浮かべている。
「早月先生。……ダメ、ですか?」
亜美がおそるおそる尋ねる。
「ん?ああ!大丈夫、任せてちょうだい!」
ドンと胸を叩くと、早月は親指を立ててみせた。
若い二人は重い荷物を降ろせたことに、ほっとした表情を浮かべていた。
「なんて、安請け合いしちゃったけど、どうしようかなぁ……」
早月はマリコの部屋の前で逡巡していた。
というのも、早月にはその原因に心当たりがあったからだ。
清水義人教授。
おそらくは彼が原因だろう。
実は、彼は法医学の世界でもかなり名の通った有名人なのだ。
当然早月も知っていたし、その人物が来日したこと、そしてその理由も聞いていた。
――――― あれって、マリコさんのことだったのかしら……。
清水教授が直々にアシスタントのスカウトに来日した。
その人物は女性で科捜研の職員らしい……。
そう友人から聞かされたとき、早月は何となく嫌な予感がしたのだ。
「まったく…、嫌な予感が当たらなきゃいいけど!ふぅ……」
早月は大きく息を吐くと、目の前の扉をノックした後でガチャリと開いた。
「マリコさん、入るねー」
「早月先生!」
マリコは顔を綻ばせて、早月を迎えた。
それでも、その表情に翳りが見えることは早月もすぐに気づいた。
――――― これは……思ったより重症ね。
「ねぇ、マリコさん!屋上行かない?」
「え?」
「私、まだ1、2回しか行ったことないのよ。今日は天気もいいし……これ!食べない?」
早月がマリコに差し出したのは、色とりどりの金平糖だった。
マリコは、あら?と目を見張ると、くすくす笑いだした。
「わかりました。行きましょう」